Dracule Mihawk Root 01/03

マリンは治安がいいからよく行っていたし、スキャンプも遊郭から近いのでよく遊びに行っていた。今日はいつもよりも時間があるし……、今までほとんど訪れたことのなかったヴィリーに行ってみようかな。

頂上付近にある遊郭の区画とは違って、ヴィリーは3つの下の区画にある。そのせいか、他の区画に比べて暗かった。あと少しじめっとしている。それはマイナスポイントなんだけども、他のどの場所よりも静かで、何より人足が少ないということがとてもよかった。

以前、一度だけ話に聞いたことがある酒場。そこに足を運ぶことにした。なんでもそこの酒場には数匹の猛禽類がいて、すぐ間近で見ることができるらしい。そんなところがこの船にあっただなんて……! その時はとても感動したのを覚えている。ずっと行きたかったのだけどもヴィリーは遊郭からかなり離れたところにあるので、なかなか来ることができずにいた。今回は本当にいい機会だな。

申し訳程度に整えられた煉瓦道を歩いていく。でこでぼこでこぼこ。こんな道歩くのなんてエド達と旅をして以来じゃないかな。ふふ、と上機嫌に笑いながら足を進めた。

酒場 ホーク・アイ――

掲げられたサビレた看板。ロゴと話に出てきた店の名前を照らし合わせて確信する。……うん、ここだ。時間的に酒場が始まる時間よりも少し早いと思うんだけど、もうやってるのかな? そっと店内を覗き込む。明かりがついていた。

お、やっているみたい。扉にはOPENともCLOSEとも、どちらの札もかかっていなかったので少し不安だったけれど、せっかく来たのだし、聞くだけ聞いてみようと扉を開けて中に入った。

カランカラン――

「ん? あれ、お客さんかい?」
「え、っと。はい。まだ早かったですか?」

「あーいいよいいよ。ちょうど今この看板だそうとしていたところだからさ。悪いけど、適当に座って待ってて」

陽気に片手を振りながら、もう片方の手に持っていたOPENの札を掲げた男がにっこりと笑った。少し拍子抜けしてしまっていた私は「あ、……はい」と小さな声を返した。店内はガラガラ。そりゃそうだ。たった今開いたところなのだから。どうしようか、と少し考えて、結局カウンターに座ることにした。背丈のある椅子によいしょと腰掛ける。

「さぁ、何にする?」

いつの間にか帰ってきていた男がにこりと笑った。思わず、ぱちぱちと瞬いて、その顔をジッと見つめてしまった。

「ん、どうしたんだい?」
「あ、いえ。なんでもないです」

もっとガラの悪い人がマスターをやっているのと思っていました、なんて言えるわけがない。気を取り直してじゃあおすすめのカクテルをとマスターに向かって言う。

「おすすめねぇ。お酒は強い?」
「そこそこです」

じゃあ……と、言ったマスターが振り返り、後ろにある棚から一つの瓶を取り出そうとしたとき、ちょうどベルが鳴った。カランカラン、と扉の開いた合図が鳴る。

「はいよ。いらっしゃい」

数人の客が楽しそうに談笑しながら入ってきた。「マスター、いつもの頂戴ね」と慣れた様子で注文していく。「はいよ、ちょっと待ってよ」と返事を返したマスターが「ウォッカは飲めるかい?」と首を傾げた。

「はい、飲めますよ」
「では、これにしようか」

丁寧に布巾で磨きあげられたグラスにコポコポと透明な液体が注がれていく。控えめに注がれたその上に黄色の液体が注がれた。なんだろう? と顔を近づけると柑橘類のツンと爽やかな香りが香ってきた。あぁ、きっとこれは……

「オレンジですか?」
「ん、そうオレンジ。よく分かったね。絞り立てだよ。まだ最初だし、8割オレンジにしているからね」

ゆっくり飲んでいきな、と手早く次の客の酒を準備しながらマスターがカウンターから出ていく。慣れたものだ。そうこうしているうちにカランカランとまたベルが鳴る。話に聞いた酒場がまさかこんなに繁盛しているところとは驚きだ。……というのも、その話をしてくれた人はみるからに静かなところを好むように見えたもので、偏見だと言われるかもしれないけれど、まさかあの人がこんなにぎやかなところに足を運ぶとは思えなかった。

店の隅に並べられた止まり木の方に目を向けながらその人のことを思い浮かべる。なんか変わった人だったよなぁ、と。いや、まぁ…………私がお相手する方達はどの人も変わっているんだけど。……だけどさ、あの人は異質だよね。なんというか、人を寄せ付けないオ―ラ? っていうのを出している気がする。その癖、無視したら睨みつけてくるんだよね。やっかいな人だということはその1回お相手しただけで分かった。その後も数回お相手をして、そしてついに私は逃げた。いや、むしろよく何回もお相手できたよね? っていいたいぐらいだ。そのくらいあの人には癖がある。

ふぅ……思い出したらなんだかテンションが下がってきてしまった。話相手だったマスターが他のお客との話で盛り上がっているから、と一人静かにグラスを口へと運んでいた。オレンジの爽やかな風味がなんだか心地いい。おかげで沈み駆けたテンションも徐々に戻ってきていた。

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