Dracule Mihawk Root 03/03

ふと、私がこのまま何も言わなかったらこの人は一体どうするのだろうか、と気になった。だから、次ミホークさんが話題を降ってくるまで黙っていようと思う。まだお酒は半分もあるし。とりあえず、今ミホークさんが何をしているのか確認してみようか。お酒を飲むついでに視線を隣に向ける。そこには頬杖をついて何やら悩ましげに考え込んでいる姿があった。それが珍しくて、思わず話しかけてしまう。

「何をそんなに考え込んでいるのですか?」

あぁ、しまった。さっき言葉を待つって決めたばかりじゃないか。

「言葉を選んでいる」
「……言葉? 何の言葉ですか?」
「なんと言うのが一番いいのか」
「ミホークさんがそんなことで悩むことあるんですね」
「俺をなんだと思っている」
「えっと、…………面倒な人?」
「フッ、俺は面倒な奴か。ならますますどうするべきか、悩むな」
「なんか凄い気になるんですけど、何を悩んでいるのか教えて下さいよ!」
「…………じゃあまず選んでもらおうか。結論が先か、動機が先か」
「結論と動機? どうしてそう難しい言葉を使うんですか? 私への嫌がらせですか。まぁ別にいいですけど。慣れてますから。……じゃあ、動機で!」

人差し指を立てて、まるで推理ゲームをしているかのように目をきらきらとさせながら調子のよい声で言った。実際少し楽しかった。ふむ、と小さく息を吐いたミホークさんがでは、と息を吸い込む。

「なまえを愛している」

ブッ――!!?

タイミングが悪かった。こっちはお酒を口に含みつつ、軽い話を暇つぶしがてら聞くつもりだったのだ。まさか、……まさかまだ諦めていなかっただなんて。

「ちょ、まだあきらめてなかったんですか!」
「当然だろう。ずっと言っているだろう」
「えぇ、知っていますとも! それが嫌で逃げ出したんですから」
「それで、俺の相手を拒否したと?」
「はい、そうです。その通りです。傷つきました?」
「なぜ傷つく必要がある」
「……え、なんでってそりゃぁ……」
「拒否するということは、俺のことを意識しているということだろう? だから、こうして来た。そろそろだろう、と」

はい?

「次は結論だな」
「えっと、もういいです。なんかもう嫌な予感しかしない……」

「俺と共に来い」
「…………嫌です」

絶対に、と後ろに言葉を付け足す。まぁ、だろうな。と意外な言葉を吐き出したミホークさんに少し驚いた。

「なら、なんで言ったんですか?」
「それだけお前が欲しいからだ」
「そんなこと言っても嫌なものは嫌なもの、ですからね」
「どうしてそう嫌がる? 別に好きな奴がいるわけでもないのだろう?」
「えぇ、まぁ。ここにはいませんよ」
「なら、どこに?」

ツィ――と人差し指一本を天井に向けて、視線を一回上に向ける。

「天国に、」

エドのことを思い出してきゅ、と胸がしまった。私の好きな人は未だにあの人だった。

「そうか、ならよかった」
「なんでそうなるんですか?」
「……薬は飲んだか?」
「ちょ、話を変え「飲んだのか?」……」
「……飲んでないですけど?」
「ならいい。しばらくは飲むなよ」
「は? なんで私があなたに言われないといけないのですか!!」
「俺が死ぬまでは飲むな」
「……ちょ、ちょっと言っている意味がまったくさっぱり分からないのですが……、一体何のお話をされているのですか?」

はぁ~と深いため息を吐き出したミホークさんが言う。

「なぜ次へ進むことを嫌がる?」
「別にそれ事態が嫌なんじゃない! むしろ、戻っちゃうから嫌なんです!」
「…………結局は歳か?」
「っ、」
「図星だな。そうだろうと思っていた」
「ならなんで…………!」
「だからさっきから解決策を言っているだろう」
「薬を飲むなって? そんなの解決策じゃない! そんなのはただのわがままですよね? どうせ自分が死ぬまでの間付き添ってくれたらそれでいい、とか。そんな都合のいいこと、「なまえ……」」

まさにその通りのことを言われて、カッと頭に血が昇って別にミホークさんが悪いわけでもないのに、つらつらと感じの悪い言葉が並べられていく。あぁ、私って最低だ。分かっていても言葉が止まることはなく。頭の熱は上がっていくばかりだった。そんな私を見かねたのか、ピタリ、と頬にひんやりとした冷たい手を置いたミホークさんがゆっくりと私の名を呼んだ。

かっちりと合った金色の瞳が瞬間的に私の心を奪った。さっきまでぱくぱくと動いていた口もせわしなく動いていた手もすべてが停止する。スッと息を飲む音が聞こえた気がした。

「それで、もし生きることが嫌になったならば、お前は不死ではないのだから俺が殺してやる」

ごくり、と唾を飲み込んだ。

「迷っているのだろう? もう何年も。しかし答えは出ていない。ならば、その答えを俺に預けてみろ」
「っ、で、も! でもそれが間違っていたら……?」

落ち着け、と低い声が諭すように言う。

「っ、ミホークさん。私は……」
「愛しているからこそ殺せない奴と愛しているからこそ殺せる奴。お前はどちらを望む?」

あぁ、なんて、なんて意地悪な人なのだろうか。私がそれでどれほど悩んだのか、知っているのではないだろうか。いや、そんなはずはない。……だって誰にも言っていないことなのだから。……でも、この人は。

「なんで、そのことを?」
「お前を見ていれば分かる。後者だろう? 天国の奴には連れていってもらえなかったからな」

いつの間にか溢れだしていた涙は頬に添えられたミホークさんの手の甲の上を流れ落ちていく。

「一人残していくなどできはしない。絶対に」
「そんなこと言われても、私にはもうこの場所が……」

無理だよ、と弱々しく返事を返す。この遊郭から出るなど無理な話だ。お世話になった方がたくさん居る。エドの面子だってある。顔を俯けて、無理だってと再度言う。まだ足りないのか?、と声が聞こえた。

「……ならば、王下七武海などというしょうもない称号は捨てるとしよう。……戻るぞ」
「え?」
「本来、俺もお前も海賊なのだから、別に問題はないだろう?」
「……え、え? ちょっ!!?」
「さて、行こうか。まず手始めに誘拐することとしよう」
「は、はぁ!?」

立ち上がり、帽子を被り刀を背負ったミホークさんが片手を前に差し伸べてくる。その手をジッと見つめた。さぁ、と催促されるその手に恐る恐る手を伸ばしていった。何しているんだろ、私。ようやく触れ合った肌は先ほどより温かかった。触れた瞬間にぎゅ、と力強く握りしめられた。反射的に顔を上げたらミホークさんがとても嬉しそうに笑ってくれていた。

「間違っていた、などと思わせはしない」

かけだしていく背中にひどく安心してしまった私はきっとこれから先死ぬまでずっとこの人の側にいるのだろうな、と。なんとなくそう思った。そうして、死ぬときも一緒なのだ。だって、彼は私のことを愛してくれているのだから。

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160402 End.

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