ぴかりと瞬いて収束 01

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ガチャン――遠くで聞こえた音。玄関の扉が開いた音だろう。またヒナの奴勝手に入って来て、と呟く。キュッキュッと蛇口を捻れば勢いよく飛び出していた水が止まった。もう少し浴びていたかったな。名残惜しみながらも垂れてきていた髪を乱暴に払いかき上げる。壁に両手をついてふぅ、と息を吐き出し、気合いを入れ直して顔を上げた。そこには1枚の鏡。ぽたぽたと雫を落とす自身の顔の右頬には生々しい傷が一筋入っていた。まだ赤いそれ。それをひと撫でする。いつの間についたのだろう。

また男前になってあんたどうするのよ! そうやっていつものごとくヒナに怒られるのだろうか。でもその度に彼女の優しさを感じることができるから私は嬉しいんだよね。勝手に入ってきたであろうその人のことを考えると頬が緩んでいった。ぺたん、ぺたん、と音を立てながら扉の方へ歩いていく。扉を開くともわんした湯気が脱衣所に流れていった。かわりに入ってきたひんやりとした空気に心地よさを感じて目を閉じる。涼しくてすごく心地よかった。

数秒後、バタバタバタと聞こえてきた足音。ヒナにしてはいつもよりも足音が大きい気がする、とは思った。でもそれ以上どうこうする気にもならず、特に気に止めることはなかった。いつも通り脱衣所に置いてあるバスタオルに手を伸ばす。その時、突然、脱衣所の扉が開いた。

「ちょっと、ヒナ? 私、シャワー浴びたばっかり…………へ?」

扉の向こうに立っているのはヒナじゃなかった。湯気が立ちこめぼんやりとしていた視界の中で捉えた色は”白”だった。あの目立つピンク色でないのだからヒナじゃない。咄嗟に掴んだバスタオルでなんとか体を隠そうとしたけど、この至近距離だ。湯気があるとはいえ、見えるものは見える。

「ちょ……ま……じ、で?」

真ん丸に見開いて見た先にいたその人は紛れもなく、同僚のスモーカー中将で、その姿を理解した瞬間、呆然としてしまった。不法侵入に覗きときたもんだから、怒りなんて通り越してしまって、どちらからと言えば呆れていたと思う。何やってんの、あんた……って。視線を逸らすことなくこちらを見続けているその人の瞳が徐々に見開いていく。自分の唇が徐々に引きつっていくのを感じた。もう笑うしかない。眉間に思いっきり皺を寄せると、ようやく今の状況を理解したのか、彼はものすごく罰の悪そうな顔をした。彼にしては珍しい表情だ、そう思った次の瞬間――彼が言った。

「あー……、話があるんだが、」
「っはぁ!? この状況で? よく言えるわね!!」

悪い、とかごめん、とか。そういう一言が彼にはない。分かってたけどさ。あれだけ罰の悪そうな顔するんだから、悪かったぐらい思っているでしょうに。鋭い目付きで睨みつけた。

「なまえ、」

今更そんな風に潮らしく名前を呼んだって無駄だから。バスタオルで体を覆い、彼の方へ歩み寄る。呆然とこちらを見ているその人の胸板を思いっきり片手で押して体を後ろへ突き飛ばした。されるがまま、壁に背中をぶつけた彼が顔を顰めたのがはっきりと分かった。強く睨みつけたまま言い放つ。

「出てって!!」

これでもか、というぐらい、盛大な音を出して扉を閉めた。扉が壊れたんじゃないかと思うぐらいすごく大きな音がして、その後は不気味なぐらいシン、と静まり返った。扉のノブを握り締めたまま、扉の向こうを探った。すこし言い過ぎてしまっただろうか。扉の向こう、カチャンと金属音がした。あーもう、私の部屋は禁煙なんだけど! ふぅ、と聞こえた息遣い。その後にリビングで待ってると彼が言った。

足音が通り過ぎていった後、扉の隙間から彼の香りがした。正確には、葉巻の煙。もしこれが彼自身だったら、私はもうすべてを見られているんだろうな。ぎゅ、とバスタオルを握り締めた。……何考えてんだろ、私。服を着て脱衣所の扉を開くとそこに溜まっていた煙がうっすらと見えた。それを掴むようにして手を伸ばす。掴めそうで掴めない。まさに彼そのものに思えた。

……分かってる。近づき過ぎたってことぐらい。

言われた通りリビングに向かうと、いつの間にか入ってきていたヒナが遅い! と一声上げた。その隣には両腕を組んでムッと唇を結んでいる彼が立っている。それは私が突き飛ばしたから? でも自業自得なんだから仕方ないでしょ? 彼と目が合ったけれど、ツンとそっぷを向いて言った。

「ヒナ、これはどういうこと?」
「どういうことって?」

私は何も悪くないわという態度ヒナに対して詰め寄る。

「な、ん、で、スモーカーがここに来ているのかーしーらー?」
「あら急ぎの用だってスモーカーくんが言うから教えたまでよ? ヒナ、心外」
「……それで、用って?」

はぁ、とため息を吐き出す。口喧嘩でヒナに勝てた試しがないから最近は早々に諦めるようにしていた。まだ濡れている髪をバスタオルで拭きながら愛用のソファに座る。ヒナの隣に腕組みをしている態度のでかい男はふぅと息を吐き出した。

「悪かった」
「そんなこと聞いてない。用件は?」

あーあー分かったよと両手を上げたスモーカーをキツく睨みつける。しばらくはこの男に優しくできそうになかった。

「麦藁海賊団が復活した」
「はっ?」

目を見開く。スモーカーの目つきが変わった。どうやら本当のことらしい。

「生きていたの?」
「あぁ、みたいだな」
「なんでもっと早く言わないの!?」

声を上げると、心底面倒だというように顔を顰めたスモーカーがはぁと息を吐き出して言った。お前が悠長にシャワーなんか浴びているからだろうがと。でもそれは仕方がないことなわけで、そりゃあスモーカーからしたらシャワーなんて最悪なものに時間をかけることが理解出来ないかもしれないけどさ。私能力者じゃないし、シャワーぐらいゆっくり……っていうか。

「何よ、ラッキーとばかりに私の体を上から下まで見回した男がよく言うわ」
「――――ッ」

視線を泳がせ、罰が悪そうに顔を逸らすスモーカーの顔をふぅん? と呟いたヒナが覗き込んだ。

「スモーカーくんでもそんなことするのね、ヒナ驚愕」
「ヒナ、その男に近づいたら何されるか分かったものじゃないわ。離れておきなさい」
「……それもそうね」

まぁ今更な気もするけれど、ヒナのその言葉には同意する。私とヒナとスモーカーは同期で三人で一緒に戦場に出て、のし上がってきた。一時期はバラバラになったけれど、でも今はこうして肩を並べている。仲は非常にいい。逆にそんな仲だから、こういったトラブルは気まずくて仕方がない。こういうとき、スモーカーと私たちは違うんだなって痛感してしまうから。

「それで二人はどうするのさ」
「ヒナは本部に呼ばれてる」
「スモーカーは?」
「俺はG5に配属だ」
「……あら、なまえと同じところね」
「……なんの嫌がらせ?」
「は? それはこっちの台詞だ」

バチバチと火花を散らす私とスモーカーを一別したヒナはじゃあ私、船の時間が迫っているからもう行くわと部屋を出ていく。

「ヒナ、また連絡してよー!」

はいはい~ヒナ、了解! 玄関の方から声が聞こえて、バタンと扉が閉められた音が部屋に響いた。

「それで、スモーカーはいつ出発するの?」
「……今日にでも出るつもりだ」
「よし、じゃあ先輩がついていってあげよう」
「あァ?」
「冗談抜きで私も一緒に行くわ」
「……分かったよ」

チッと面倒くさそうに舌打ちする姿に逆にこっちも舌打ちしそうになるが、なんとかこらえる。

「……ふぅ、じゃあ制服に着替える」
「……どうぞ」
「どうぞじゃない、外へ出なさい」
「はぁ? 今まで気にもしてなかっただろう? なんで今更」

逆にさっきのことがあって、気にも止めていないあんたの方がすごいでしょと思いながら、もういい、と服を脱ぎ出す。

「な、お前、本当に!?」
「何? 文句ある?」

振り返って下着姿で堂々として見せれば、あぁ俺が悪かったと珍しく狼狽するスモーカーが見れた。ニィィィついつい口元が緩んでしまう。もう少し慎ましく着替えてくれ、そう言いつつも部屋から出ていかないのね。そう思いながらはいはいと答え、さっさと着替えた。

「よし、完了!」

行くよ、スモやん! からかうようにスモーカーの背中を叩けば、イラァっとした顔で あぁ”? と言われたけど、無視しておいた。そのまま二人船に向かう。一応、電伝虫で上に確認を取り、了解を得た私たちはG5へと向かった。

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