ぴかりと瞬いて収束 02

two

 

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「……というわけで、こちら新しく配属されたスモーカー中将です。みんな仲良くするように!」
「はい、中将質問です!」
「はい、そこの馬鹿どうぞ!」

「いつものことだけど、ひどいです中将!」手を挙げた部下が鼻を啜すする。そして続け様に言う。「どうして中将が三人もいるんですか?」と。そんなことはこっちが聞きたい、そう言い返しそうになってなんとか思い止まった。ヴェルゴも入れたらG5には中将が三人もいるんだからそりゃぁそう思って当然だろう。異例と言えば異例。でもここはあのG5だから。

「それはね、君たちが上の言うことを聞かないからだよ、分かる?」

本当のところは知らなかったが、もっともらしい言葉を並べて口元を引き攣らせる。たったそれだけで部下一同が一斉に視線を逸らした。全員自覚はあるということだね、うん。粗めの鼻息を吐き出す。その様子を隣で黙って見ていた男が呆れた口調で言った。

「なまえ、お前いつもこんなことやってんのか?」
「……職場では中将つけなさい、スモーカー中将」

嫌みったらしく言ってやったら、あからさまに不快げに顔を歪めたスモーカーが鋭い目付きで睨んでくる。

「何、喧嘩売ってるの?」
「それはお前だろ」

そうかもしれない。ふ――つい口元が緩んだ。途端に「いつものやるんですか!?」そこかしこから声が上がり始めた。先ほどとは打って変わって、部下たちが目を輝かせながら騒ぎ出した。スモーカーは話の先が見えないらしく、周囲を見回している。イライラ増し増しの様子で「説明しろ」と言った。両腕を組んで仁王立ち――それが人に物を頼む態度なの? 軽く小言を挟んだが、彼は言われて動じる人ではない。今更何を言おうが、彼のそういう態度は変わらない。それは経験済みだ。

「新入りは私の熱い洗礼を受けることになってるの。ヴェルゴの有り難いお言葉だけじゃ足りないでしょ? そもそも今彼は遠くの海へ出ているし。それが例え中将だからって洗礼がなくなることはないから」

ね?

にまにまと笑ってしまう。スモーカーよりも先にG5に来ていたのは伊達じゃない。ある日ある時に戦闘に目覚めてしまった私は戦闘が大好きで、更に頭に血が昇りやすい性格ときたもんだから度々他の隊でやり過ぎてしまって、ここへ異動されたのだった。普段はそうでもないと思うんだけど。たぶん。

目の前の強敵に体が疼く。こうして中将と戦うなんて滅多にない。私が入ったときはヴェルゴにぼこぼこにされたから今度は私がぼこぼこにする番だよね。コートを脱いで部下に渡す。それまで本当に闘るのか、と半信半疑でいたスモーカーも気合い充分なこちらの様子を見て腕を解いた。あっという間に煙になった彼は20mほど離れた位置で姿を見せた。

もわんと立ち込める煙。とても懐かしい香りだった。私と彼とヒナとまだ三人同じところに所属していたときは毎日感じていたもの。そこから一番にヒナが抜けて、次にスモーカーが抜けて、私はそのままそこに残る事になった。当時の私は、軽く指先で押されただけでコロリと転んでしまう、そんなどこにでもいる力のない女だった。だから…実はこれが初めてなのだ。スモーカーとこうして向き合って本気で戦うのは。

「まさかお前とこうして闘る日が来るとは」
「奇遇ね。私も今同じこと考えてた」

……でも、今は違う。今は力のない女じゃない。腰に納めていた一本の刀を引き抜く。女が扱う刀にしては少し長いその刀は剣術を教えてくれた人からのプレゼントだった。お前にはこの刀が一番、合っている、だそうだ。曇りひとつないことを確認して、唾のところに小さく口付けた。

気持ちを落ち着け顔を上げる。直線上に立つスモーカーの顔はますます歪む。チッと聞こえた舌打ちにクスリと笑った。私が刀を大切に扱えば扱うほど、なぜか彼の機嫌が悪くなる。どうしてなのか、今度聞いてみようか。

クスクスと笑い、刀をひと振りする。カチャン。刀身が鞘に収まる音とともにスモーカーの後ろの岩が真っ二つになった。ポロリ――スモーカーのくわえていた葉巻も真っ二つになって落ちていく。それを確認したスモーカーがやりやがったなと私を射貫くように見る。あーゾクゾクしてしまうのはなぜだろう。私はこの男のこういう闘争心むき出しの表情が好きだ。なぜかは分からないけれど、この顔にはそそられるものがある。

キーン、キーン――

刀と十手が合わさり、幾度と音を鳴らす。合わさる度に近づく互いの顔。こんなに近くで見たのは初めてかもしれない。あぁ、こんなに傷ができて。スモーカーに比べたら私なんてまだましな方なのだろうな。……彼を何となく労りたくなった。深い意味なんてない。気付いたら彼の顔に走る傷跡を指で撫でていた。彼は目を見開いて私を見ていた。

「おい、嘗めてんのか?」
「舐めてないよ、汚らしい」

クスリとひと笑い。身を捻って軽々かわす。チッ、ちょこまか動き回りやがって――忌々しく毒づくが、彼は決して深追いはしなかった。体の重いスモーカーじゃ、小柄でスピードのある私にはついて来られない。それを瞬時に見抜いたところはさすがだと思う。実戦経験では彼の方が断然上だ。機転が利くところでは、素直に負けたと言っておこう。

自由に動き回れないように煙が後ろから追ってくる。チッ――今後は私が舌打ちをする番だった。度々行く手を阻まれるので逃げるのも攻めるのもやり難い。振り返ったところ、不敵に笑うスモーカーを睨み返す。こいつ……また面倒な実を食べたな。一歩引いている部下たちがその様子を息を飲んで見守っていた。「さすが中将だ、なまえさんと渡り合っている」どっかのバカの声が私たちの耳に届くと、更に調子を上げたスモーカーが楽しげに言った。

「……だとよ、お前もまだまだのようだな」

楽しげに喉で笑う彼の姿は私を苛いらつかせた。動きを止めて立ち止まる。売り言葉に買い言葉なのは分かっている。けれど、こいつにだけは負けたくない。完全に頭の糸切れた私は部下に叫ぶ。

「おまえら、死にたくなければ下がってろよ」

どいつもこいつも、この技の発動前はゾッとする顔を浮かべて逃げていきやがる。全く、根性のねぇ部下どもだ。これぐらいかわせるやつになってもらわないと困るというのに。

「スモーカー中将」
「なんだ、なまえ」
「……中将つけろ」
「女がそんな言葉使いすんじゃねぇーよ」

プチン――

今そんな話してないだろ。あーもう、手加減するのはやめた、そう言って刀を鞘に納める。空気が凍る。何かがおかしいと感じたスモーカーが何がきても対応できるようにと構えた。いい判断だ。後ろの部下たちはいつの間にか広間から出て行っていた。今、この空間には私とスモーカーだけ。遠慮する必要は完全になくなった。

目を閉じる。息を吸って肺を大きく膨らませる――そして、吐く。彼の気配を感じる。能力を使っている。何処にいるのか、手に取るように分かった。煙になっても私には敵わないというのに。堪らず笑みが零れる。笑い声を聞いたスモーカーが苛ついているようだ。これなら挑発に乗ってくれるだろうな……、よし。わざと隙を作った。直後、彼が仕掛けに乗って来たので嬉しくってにんまりと悪役顔で口元をつり上げ笑う。引っ掛かったな――攻撃が当たる直前、両眼を開く。視界にはっきりとスモーカーの姿を捕らえた。次に呼吸をするときは技が終わった時だ。

「磔刑たっけい」

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「……弱いぞ、スモーカーくん?」

ふふふっと笑ってやるけれど、もうすでにその男の意識はそこにはなかった。スッと彼の顔の傷跡をひと撫でする。私の勝ちだ。完全に意識をなくしたスモーカーを部下に任せて、私は自分の部屋へ向かって歩きだした。……少し汗かいちゃったな。

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:

コンコン――

「はい、どうぞ」

入ってきた仏頂面に遠慮なく吹き出した。

「ふ”、あははははっ!! どうしたの、その顔!!」

「お前がやったんだろうが!」怒鳴られようが、可笑しいものは可笑しい。顔には無数の擦り傷。ところどころに、ペタペタと可愛らしい絆創膏が貼られていた。

「えーだって、さすがにやりすぎたかなぁ? っと思ったから、せめて治療ぐらいしてあげようと思って~」
「思って~じゃ、ねぇだろ、悪意しか感じねぇぞ!」

まぁまぁ、いいからいいからと激怒するスモーカーを宥めて来客者用のソファに座らせる。私も向かい合うようにして座った。

「それで、私に負けた感想は?」
「……あれはなんだ?」
「ちょっと、感想は?」
「説明しろ」
「なんであんたに説明しないといけないのよ」
「あんな危険なこといつもやってんのか!?」
「……はぁ?」

「そんなことで怒ってんの?」言い返すと、スモーカーは言葉を詰まらせた。彼の表情のせいで、こっちまで言葉に詰まってしまった。

「ごめん、言い過ぎた」
「……驚いた」
「え?」
「感想言えっつっただろ、驚いた」

お前が強くなっていたから――その言葉が頭に入ってきたとき、私は嬉しくて、「ありがとう」と自然と言葉が出ていた。なんかやっと報われた気がする。

「お前、そんな風に笑えるんじゃねぇか」
「……え? 私、何か変なことした?」

素直に喜んだつもりだったんだけど……、首を捻る。……が、すぐに「もういい」と言われてしまってよく分からなかった。どういう意味かちょっと気になる。

「じゃあ今度はお前の番だ、質問に答えろ」
「答えろって言っても、ただこれをたくさん投げていただけだけど?」

ゴトッ――

懐にしまっていた、愛用のそれを机の上に投げ置く。「なんだこのナイフは?」顎で指しながらスモーカーが呟いた。

「正確にはナイフじゃなくて、クナイって名前なんだけど、私もよくは知らない。師匠が見繕ってくれて、私に合っていたから使っている。ただそれだけ」

「はい、これでいいでしょ?」続けて言う。あからさまにスモーカーの眉が寄った。

「まだ何か?」
「手ぇ出せ」

「……手?」

なんで?

「いいから!」

そんなこと急に言われたら誰だって警戒する。特に私はこれでも女なのだ。簡単には男に体を触らせたりはしない。

「いや」

チッ――

「ちょっと!」

舌打ちしたスモーカーに強引に腕をグィッと引かれる。問答無用で服の袖を捲り上げられて白い肌が晒された。そこには真新しい無数の傷があった。

「……これは?」
「仕方ないでしょ。この技はまだ完成していなくって」
「……で?」

「たまに失敗しちゃって……」弱々しく零れ落ちた言葉。負け惜しみを言っているみたいで悔しかった。

投げたクナイが壁に刺さることはない。その前に自分の手で上手く受けている。服に仕込んだ数本のクナイを投げては取り、投げては取り。私の技「磔刑」は、それをただ早いスピードで繰り返しているだけなのである。でも意外とこんな芸当ができる人は希有なようで、いつもみんなに驚かれた。

「クナイにも何かあるんだろ?」
「よく分かったね!」

掴んだクナイをスモーカーの前に差し出す。首を傾げた彼の手の中に遠慮なく置くと、彼はクナイを素早く手放した。

「――ッ、お前!!」

声を上げる彼にニヤリと笑って見せる。

「そう、これは海楼石でできてるの」

スモーカーの大嫌いな、ね? わざと嫌みたらしく言ってやる。顔を上げると、具合の悪そうなスモーカーが目に映った。…………これはいい。

「ねぇ、スモーカー」
「……なんだ」

「能力者に取って海楼石ってそんなに辛いものなの?」

そう聞くと、「なぜ今更そんなことを?」と言いたげな顔で、眉根を寄せるスモーカー。空気が張詰めた。

「この前の仕返ししてもいい?」

は? スモーカーが声を発する前にクナイを投げつける。刹那――いい反応で煙になってかわしたスモーカーの後ろ、それを上回る速さで背後を取った私が彼の背中にぴったりとクナイを押しつける。一瞬で能力が解けた。実体がそこに現れる。

「……っ」

「だるい?」

仕返しが出来て満足満足。クスクスと笑うと、だるい体を動かしたスモーカーがこちらを睨む。掴みかかってくる腕を軽くかわした。スピードじゃ私に勝てないでしょう? 返事は返ってこなかった。このぐらいにしておいてやろうかとクナイを離す。途端に脱力してその場に身を降ろしたスモーカー。両膝をつく彼が見れる日が来るとは思っていなかった。これは師匠に感謝せねば……黒いコートと黒い帽子のシルエットを思い起こして感謝した。

「もう、しょうがないなぁ」

苦笑しながら片手を差し出す。はぁ――長息を吐き出したスモーカーの手が私の手に重なった。

「スモーカーは私よりも体が重いんだから、あんまり体重かけないで、よ、ね? って……ぅえ!?」

グラリと揺れた視界。捕まれた手が予想以上に引っ張られて体が傾く。

「……おい」
「ったぁ~~」

すっころんだ。

「手ぇ貸すならもっとしっかり立ってろ」

不機嫌そうなその声は耳のすぐそばで聞こえた。なんか暖かい。目を開くと正義の文字が逆さまに見えた。あれ、このジャケットはスモーカーの? ……ん? と頭を動かせば、スモーカーの肩に乗っかっていた。うわ、ごめんと体を引こうとすると、腰に回されていた手に力が入った。

「スモーカー?」
「スピードじゃ勝てねぇが、力なら勝てる」
「う、ん……、そうだね」

分かったから、離してよ。どこか様子のおかしいスモーカーに小さな声で返す。そうすると、彼は力を緩めてくれた。

「なぁ、なまえ」
「……何?」

「この前はすまなかった」
「……その話はもう、いい」

……いいから、手離してよ。

「責任取らせろ」
「……うん、……うん? ……っは?」

急いで顔を上げるとスモーカーとカチンと視線がぶつかった。え? え? え? え、と。あの、その……。あれ、え? 私の視線は宙を舞う。すぐにスモーカーの手が頬に伸びてきて、その舞っている視線は強引に彼の方へと向けられた。

「結婚してくれ」

「……は?」

:

あぁ、さっきから私、は? しか言ってなくない? そう思いながら、色々とすっ飛ばしてないスモーカー? と、目の前の人に目を向ける。でも、どうやらスモーカーの方にも余裕というものはなくて、早く何か言ってくれと彼の目が揺れていた。私は何か返事を言いたいけど、言葉が出てこなかった。しばらく流れる沈黙。

それを破ったのは私だった。

「え、と。私そこまで思い詰めたりしないよ?」

体を一回見られたくらい。……いや、くらいではないとは思うけど、でも、見られたから結婚するだなんて。そんなことしていたら、世の中みんな結婚しているんじゃないかと思う。

「……」

スモーカーは私の頬から手を離す。良かったと安堵しているのだろうか? チクリ――なぜだか、胸が痛んだ。

「スモーカー?」

スモーカーは胸のポケットから一枚の紙を取り出す。

カサリ――

広げられた紙に目を通した彼はチッと舌打ちをした。

「あー……なまえ」
「……はい」

「好きだ、結婚してくれ」

だーかーらー! いろいろすっ飛ばしてるんだって! そう思う私の足はかけだしていた。

「……うん、いいよ。スモーカーなら」

思い切りダイブした胸の中。小さな声で答えれば、上からはふぅと息が吐かれた。ヒラヒラとスモーカーに握られていた一枚の紙が床に落ちていく。視線を向けれれば、そこにはなじみの文字が浮かんでいた。

:

なまえの理想のプロポーズは、好きな人からいきなり告白されて、いきなりプロポーズされること。
がんばってね。ヒナ、応援!

ふふふ、漏れた笑みは、真っ赤な彼の優しい口づけの中に消えていった。

:

150523 End.

Afterword

え、これだけ?はいこれだけです。急にスモーカーにプロポーズされたいと思って、衝動で書いてしまった。なので、この短さ笑

たぶん、需要はないだろうけど、書けたから満足です(*´∀`*)

ともあれ、閲覧ありがとうございました!続き?…ないかな?付き合ってからの話とかかけたら面白いかもしれない。振り回されっぱなしの彼はきっと可愛い(/ω\*)

そして、この短編でも出てくる私のミホーク愛……苦笑

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