ローくんがファミリーに入ってからもう2年が経った。タイムリミットが迫ってきている。そんなとき、ついに悪魔の実の情報の一つが手に入った。…………そんな矢先のこと。
コラソンとローくんが失踪した。
命の期限の迫ったローくんのためにコラソンがローくんを連れて治療するための旅に出た。ドフィは何度も何度も電話をかけたけれど、コラソンはずっと電話に出なかった。2人がいない間もオペオペの実の情報を探り続け、そしてついにとびきりの情報を手に入れた。
「実は誰が食べるの?」
ファミリーのほとんどが能力者だ。誰が食べるのか、それは素朴な疑問だった。
「信頼できる奴にする」
「そりゃそうだよね。私が食べれたらよかったんだけど」
「あぁ。実は二つ食べることができないからな」
「やっぱりローくんが自分で食べるの?」
「……いいや、それはない」
一言そう言ったドフィは受話器を取って電話をかけ始めた。プルルル――、プルルル――と電話が鳴る。電話に出たのは失踪して半年、音信不通だったコラソンだった。手には入ったオペオペの実の情報をドフィが伝え、そして、実の奪還計画を話した。コラソンはそれに同意して、とある島で合流することに決まった。いい知らせを伝えられたはずなのに、ガチャン――と受話器を置いたドフィの顔色は優れない。
何か、イヤな感じがした――
「お前等、……どう思う?」
「…………」
集まっていた幹部たちに向かってドフィが投げかけるように言う。
「海軍のことさ……あのおつるでさえ追ってこない。……もう半年。ちょうどコラソンがいなくなった頃からだ」
ピーカがそれに答えた。
「……それまであいつが海軍に情報を流してたってのか?」
「そんなっ……!!」
そんなのあり得ない、と反論する。ディアマンテも「偶然だろう」と言った。
「……そう思いたいもんだ……俺も疑いたくはねェと……実の弟だ」
そう言ったドフィの横顔、眉間に皺が寄り、とても険しい顔つきをしていた。そんな彼にそれ以上何も言えなかった。……だって、今一番苦しいのは彼だから。そんな彼に”心配ないよ。きっと大丈夫”なんて無責任なこと、……私には言えない。
オペオペの実の取引先はノースブルーのルーベック島。取引の3日前にその近くにあるスワロー島でコラソンたちと合流することになっていた。合流する島に向けて進んでいたはずの船が途中で止まる。
「どうしかしやしたか、若?」
「……用心しておいても別に損はしねェだろう。……ルートを変える」
ドフィは当初予定していた島の一つ向こう小さな島の影に船体を隠して2人が現れるのを待つことにした。……彼はコラソンを疑っている。そんなとき、電話が鳴った。その電話は今まさに潜入任務中のヴェルゴさんからで、最悪の内容だった。
「それで簡潔に言うとどういうことだ?」
ドフィが聞いた。
「だから、コラソンは海軍のスパイだったのさ。ファミリーにいたのはお前を陥れるためだったんだ」
ヴェルゴさんが答えた。
ドフィは静かに電話を切って、私たちに向き合って、そして、戦い行くことを告げた。船の進路をヴェルゴさんが待つミニオン島に向け、私たちは出向した。
:
鳥カゴ――
島に着くやいなや、ドフィが能力を使ってミニオン島全体を隔離する。そして、ヴェルゴさんと合流し、元々いたらしい海賊団の連中に寄生糸を使い、ファミリーのみんなを散開させた。
コラソンを見つけろ――
そのすぐ後、付け足すように「俺が行くまでは殺すな」とドフィが言った。私はドフィと共に行動した。自由気ままに動くファミリーに目を光らせつつ、コラソンとローくんを探していく。数十分もすれば島にいた海賊団は全滅した。
「ドフィ! コラソンが見つかったようだ!!」
特徴的な声に急いで振り返るとそこには鼻息を荒々しく吐き出すピーカがいた。
「あァ…………分かった、今行く」
ドフィが振り返りながら言った。
「ピーカ」
「ん?」
「なまえを見ていろ」
「えっ?? 私も行くよドフィ!!」
「来るのはいいが、お前、見ていられるのか?」
「…………」
駆けだした足はぴたりと止まる。背中を向け、横顔を向けたドフィが「いいな?」と念を押した。悔しいけれど、……たぶん私はそんなところを見ていられない。だから……、ドフィの背中を見送ることしかできなかった。刻々と過ぎていく時間の中でひたすら祈る。どうか、最悪の結末になりませんように……と。
パァ――――ンッ
一発の銃声が鳴った。
「あっ、おい! なまえッ!!」
そんなのを聞いて待っていられるほうがどうかしている。駆けだした足はピーカを振り切って、音の元へと向かっていった。
どうか、お願い――
「…………なまえ、来るなと言っただろ」
淡々と言ったドフィの手には薄い煙を上げている一丁の銃。その手は銃を握りしめたまま、力なくダラリと降りていた。その向かいには仰向けになって体を横たえているコラソン。…………血塗れだった。
「っ、そんなッ!! 嘘でしょ!? 嘘だって言ってよ!! ねぇ、コラソン!!!」
コラソンに駆け寄って、襟元を強く掴んで何度も体を揺さぶった。何度も、何度も。ゴフッ――血を吐き出したコラソンがうっすらと目を開いて私の両眼を見た。
「……なまえ、能力を使うなよ」
ドフィが釘を指すように言う。
「そいつァ、海軍のスパイだった」
「……じゃあ、コラソンは……」
「もうコラソンじゃない」
「……ロシー、貴方は、あの……ローさん、なの?」
縋るように、か細い呼吸を続けるその人を見た。彼の体のことを心配する余裕なんて、私にはなかった。
「…………あぁ」
小さいけれど、確かに聞こえた彼の声。それは数年前、海兵時代にお互いを励まし合っていたときの声のまんまで。その瞬間、すべてが崩れさっていく音が聞こえた。何もかもが嘘のように思えて、ファミリーで過ごした日々はもちろん、あの時のできごとでさえ、すべて。
「お前等、会っていたのか」
「……うん。でも海軍にいたときは声出ていたし、化粧で素顔分かんなかった」
もっと早くに気づいていれば、こんなことにならなかったかもしれない。私を見るときのロシーの目は、かつてのローさんの目ととてもよく似ていた。でも、それは気のせいだって。だから…………!!
ロシーが私を見る目はとても優しかった。そんなにたくさんの日々を過ごしたわけでもなかったのに、とても優しかった。だから、少し不思議だった。それに、ロシーは決して私に手をあげなかった。もっとその理由を考えるべきだった。真実を知ってようやくその行動の理由が分かったけれど、もう何もかもが遅すぎる。
「なまえ、騙していてすまない。お前を救えなくてすまない」
「っ、馬鹿!! 私がいつ救って欲しいなんて言ったの!? 私は……ここのみんな、ドフィたちとロシーと一緒に入れて幸せだったのに、なのに…………なんでっ!!?」
「なまえともっと色んなことしたかったな……」
そう言って、にっこりと微笑んだローさんはそのままゆっくりと目を閉じた。襟を掴んでいた手から力が抜けていって、後ろではザク、ザク、と何人もの人が雪を踏みしめる音が聞こえた。
「撤収する。金になるものはすべて船に運べ」
動けなかった。
「なまえ、いい加減離れろ」
「っ、」
「そいつは裏切り者だ。例え俺の実の弟であっても容赦はしない」
裏切りものには制裁を、それがファミリーの掟、ドフィの教え。静かな怒りを含んだドフィの声がこぼれ落ちそうになる涙を止めた。ここで泣いたら私も裏切り者になってしまう。……だから、泣けなかった。
真っ白な雪原にローさんは横たわっていた。しとしとと降り注ぐ雪が彼の体の上に積もっていく。
「行くぞ」
「……うん」
ザク、ザク、と音がした。ドフィが歩きだしたのを確認して、ドフィに気づかれないように、最後に横たわる彼の頬に顔を寄せて唇を落とした。そうして、小さな声で言った。
あの頃のままなら私たちはきっといい相棒になっていたと思うよ。……ありがとう、ローさん。さようなら――

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