もちろん好きだよ、プリンの次に

いつも通りの日常。朝起きて、キッチンに向かう。部屋に入ればすでに起きて新聞に目を通しているミホークの姿。

「はよ~」
「…………」

無言なのはいつものこと。軽く視線をこちらに送るのがミホーク流の挨拶だった。

「ご飯は?」
「もらおう」

ふぁ~い、欠伸をしながら返事をしたものだから変な声が出てしまった。まぁ別に気にしないけど。もちろん、ミホークも。

「昨日遅かったのか?」
「え?」

いつものなら気にも止めないのに、どうしたというのだろうか。吃驚して返す言葉が見つからない。開いたばかりの冷蔵庫の扉がパタンと閉まった。まだ食材を取り出せてないのに。私の様子に小さく首を傾げたミホークが「どうした?」と言う。そこでようやく言葉が出た。

「あ、いや……、昨日はちょっと読み物を読んでたらついつい遅くなっちゃって……」

そうか……、再び新聞に目を向ける様子にほっと胸をなで下ろす。ほんと吃驚した。そう思いながら朝食を作った。

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昼過ぎのこと。いつも通りミホークは海賊討伐へ向かった。暇だなと手に持っていた本を閉じて外を眺める。大きくて古びた城。ここが今の私の生活の場。2階の廊下の突き当たりには広いスペースがある。そこの窓際には私専用の机と椅子。ここで本を読みふけるのが私の日課だった。けど、毎日同じことじゃ飽きてしまうというもので、そろそろ他のことをしたいなと思っていたときだった。

ガッシャァ――――ン

城の外でもの凄い音がした。

「な、何!?」

この平穏な島で何が起こるというのだろうか。城から出ない限り、ヒヒは襲ってこない。そうなれば、ここに住んでいる人間は私とミホークのみで、今いるのは私だけ。ヒヒも普段は静かなものだし。物音がする理由がなかった。

何事だと一階へ降りる。戦闘経験など全くない私は普段城から出ることはなかった。けれど、どうしてもその音の原因が気になり、玄関の扉を開き外へ足を踏み出した。こうやって外へでるのは久々だなと思う。キョロキョロと辺りを見回して、ヒヒが近くにいないことを確認する。自分の持てる限りの集中力で歩いた。

音の元はすぐに分かった。城のすぐ側にあった廃棄物の山。その中に何かがつっこんだような後があった。あの大きな金属音はこの山に何かがぶつかったためだろう。そこで待てよ……と、思う。あれだけの大きな音。私でさえ気付いてここに来たのだ。ヒヒが気がつかないわけがないではないか。そう、いずれヒヒ達もここへ来る。確実に。ひやりと頬を汗が流れた。ここにいては危険だ。取りあえず、ここまで来たのだから、何がつっこんだのかだけ見ていくことにしよう。

ゆっくりと山に近づくと、何かが山の中で動いた。ガシャ、ガシャン。山が崩れていく。なんだろう? 目を凝らせば思っても見なかったものが現れた。

「チクショー! なんだよ、あのくまは!!」

現れた口の悪い少女は呆気に取られていた私の前で堂々と立っていた。

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「お名前は?」

ヒヒと遭遇することもなく、無事に城に戻った私とその娘はティータイムをしていた。

「ペローナだよ、あんたは?」
「なまえ、よろしく」

カチャリ、紅茶の注がれたカップを受け皿に置く。ペローナというその娘はこれ美味しいなと嬉しそうに紅茶を口に運んだ。

「それで、どうしてあんなところに?」
「知らねぇ~よ」
「いいから、いいから。話してよ、ね?」

どうやら優しくされると嬉しいみたい。仕方ねぇなと言ったペローナがいろいろ話してくれた。よし、これで退屈な一日が潰れた! と上機嫌にそのペローナという可愛い娘の話を聞いた。

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「おかえり―、ミホーク」
「げ、鷹の目!?」

三日後、ミホークが戻ってきた。何の連絡がないのもいつものこと。今日は朝食の後にペローナちゃんとトランプをしていた。ちょうどその時に彼が帰ってきたのだった。

「誰だ?」
「ペローナちゃん」

あ、はい。次ペローナちゃんだよと手札を前に差し出す。ムムムと顔をしかめて一枚を引き抜いた彼女がうぁあああ! と叫んだ。

「はい、ババ引いたー」

くっそ、と声を上げる彼女に対して思い切り声を上げて笑えば、私たちの様子を見ていたミホークが声を上げた。

「何をしている」
「ん、見て分からない? ババ抜き!」

ミホークも、する? 笑いかければふんと声を上げたミホークが離れた場所にあるソファに腰掛ける。

「なんだよ、あいつ」
「いいの、いいの。いつもあんなのだから。はい、次取るよ」

その日のトランプは私の圧勝だった。ペローナちゃんすごく弱い。

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それからしばらくしてのこと。今度はミホークが男の子を拾ってきた。

「え、と……誰?」

昨日、夜更かしをしたので、いつもより起きるのが遅くなってしまった。昼前に起きて下へ降りてみると、ミホークとペローナちゃんと知らない緑髪の青年がいた。よくよく見てみれば、その青年は気を失っているようだった。看病してやれとミホークが言う。そりゃするけどさ。

「こいつはロロノア・ゾロ」

ペローナちゃんの言葉にえぇ~!? と返す。あの今まさに世の中を騒がせている麦藁の一味の一人だ。

「なんでこの人が?」
「私と同じでくまに飛ばされたらしいぞ」

なに、今そういうキャンペーンでもやってんの、そのくまって人は。旅行キャンペーン的な? はぁ……。飛ばすならもっといいところに飛ばしてあげなよ。

「私たちじゃ運べない。ミホーク、運ぶだけ運んでよ」

しぶしぶ腰を上げたミホークに運んでもらって、青年をベッドに寝かした。

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翌日、昼前に青年が目を覚ました。

「目、覚めた?」

他にやることもなかったので朝からずっと隣についていた。

「……おまえは?」
「なまえ、ちなみにたぶんあなたよりは年上だから、気を使ってよね」

「…………」

黙り込んだ青年は起こしかけた体を再び倒して天井を見た。

「悪かった」

ミホークよりは良心のある青年だと笑みがこぼれた。……剣士ってみんなこう、ぶっきらぼうなのだろうか。ミホークといい、この青年といい。愛想がない。別にいいけどさ。

そんな時、勢いよく開いた扉。

「なんだ、目が覚めたのか、ロロノア」
「そうみたい、結構元気そうでよかったよ」

入ってきたペローナちゃんが持ってきたタオルと桶を机に置く。

「なんだ?」
「いいから、体起こして?」

タオルに水を染み込ませて、ぎゅっと絞る。ちょっとしみるかも、我慢出来るよね? と体にタオルを当てる。分かっていても、冷たいタオルに触れられると体は反応してしまうようで、思わず笑ってしまった。ジロリとこちらを見た目に余計に笑いそうになってしまう。

「ごめん、ごめん」

ペローナちゃんにはその浮遊スキルをいかしてもらって、その間に包帯を解いてもらう。現れた傷は治りかかってはいたけれど、とても痛々しく見えた。軽く体を拭いて、消毒を施していく。時折、痛そうに彼は皺を寄せていたけれど、声を出さないところはさすがだなと思う。私だったら、痛い痛いって叫んでいるに違いない。

「よし、上半身は終わり!」

次は……、ズボン脱いでね、下もするから。何の躊躇もなくそう言って手を伸ばせば、ちょっと待てと青年に止められる。

「なんで?」
「なんでって、お前……」

「騒がしいな、何をやっている?」
「ミホーク、起きたの? おはよ~」

開かれた扉に目を向けて挨拶する。すぐに目の前で抵抗する青年に詰め寄った。

「ちょ、お前!」
「いいからロロノア、手離せよ!」

ペローナちゃんも加わって身ぐるみを剥がしにかかる。後ろでその様子を呆れて見ていたミホークが長いため息を吐き出した。

「何をやっている」
「何って、言われた通り、看病してるんだって! ちょっと、もう、君! いい加減手を離してよ!」
「はぁ? 意味分かんねぇよ! やめろっ」
「ミホーク、この子に言ってやってよ~」

「その辺にしておいてやれ、下半身なら自分でできるだろう」
「あぁ、それもそうね」
「それより、飯だ」
「うん、分かった」

じゃあ、ここに一式置いておくから、ちゃんと消毒しなよ? そう言って昼食の準備をするためにキッチンへ向かう。今日から一人増えたから頑張らないと。

「ゴースト娘も手伝いにいけ」
「お前に言われなくてもそうするよ」

吐き捨てるようにいったペローナもなまえの後を追ってキッチンへ向かった。残された部屋では男二人がほっと胸を撫で下ろしたのだった。

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「なまえと鷹の目ってどういう関係なんだ?」

まるで世間話をするかのように吐かれた台詞に一緒に食事を取っていたゾロがむせた。隣に座るペローナちゃんになんてこと聞くんだよと耳打ちする。

「別に聞いたっていいだろ?」

聞くならせめて、あいつがいないときにしろ。そう言って青年はミホークの方へ目を向ける。

「別にいてもいなくてもなまえなら変わらないって」

だろ……? とこちらに目を向けるペローナちゃんに苦笑する。その通りだった。

「それで、どういう関係なんだ?」

なんだかんだ、青年も気になるようで、気にしていることがバレないように聞き耳を立てているようだった。おいおい、完全にバレてるぞ。

「ん~そうだなぁ」

ちらりとミホークに目を向ければ、こちらは完全に素知らぬ顔で、気にしていないことが分かってちょっとムカッとした。だから言ってやる。

目の前にあったプリン。

「もちろん好きだよ、プリンの次に、ね」

それじゃ質問の答えになっていないと声を上げるペローナちゃんに舌を出してごめんと謝る。ミホークはと言えば、訝しげにこちらを見ていた。ふん、ミホークなんか知らない。顔を逸らす。今日一日は相手にしないでおいてやろう。そう心に決めて、プリンを一口、口に運ぶ。

「……これ、美味しい」
「だろ? 有名なところのでさ! もう一つあるから、それはおやつにな。あ、ロロノアと鷹の目の分はないから」
「なっ! なんでだよ!!」
「当たり前だろ」

この2人が来てから、私の日常は騒がしいものへと変わった。ふふふ……自然と弧描いた口元、視線の先にいたミホークが小さく首を傾げる。そして、口をわずかに動かした。悪かった。確かにそう言う口元に、にんまりと笑って返す。私も小さく動かして返した。

分かっているわ、愛してる。

私たちが夫婦であることを二人にいつ伝えるか……、意地悪な私はしばらくは伝えずにいようと決めてしまう。

「はいはい、じゃあ一口だけあげるから」

そう言って、青年の口にプリンを運べばあなたの眉が少し動く。今日はそうやって焼きもち焼いてなさい。このお馬鹿さんめ。

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