失くしたと思っていた心臓

あぁいうのを格好がいいというのだろうか、その時のことを脳裏に思い出しながら、もはや実際にどうだったのか正解が分からなくなるくらいには反芻はんすうしたなぁと感慨深くなる。あっという間のことだったから本当に現実に起こったことだった……よね? と思えて来るほどにどっぷりと空想の世界に入り込んでいた。

好き……とはまた違うのだろうか。もう一度会うことが出来たらこの気持ちが何なのかはっきりと分かるのだろうか、朝から晩まで一日中そんなことを考える毎日。……私の頭の中はすっかりお花畑と化していた。

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そんなある日のこと。

ヤガラ専門と名を売ってはいるものの、一応は獣医という立場で免許も持っている。だから動物全般を見ることも出来た。普段の私は、店舗を持っていない代わりに、ヤガラ専門として固定客を回って生計を立てている。お店がない分、維持費は浮くし、時間の融通も利くのでこのスタイルが気に入っていた。でも別にヤガラ以外の往診を断っている訳でもない。相談が入ったときに手が空いていたら急いで駆けつけていた。

そして、今しがたその往診が入った。

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「分かりました。ガレーラカンパニーですね。すぐに向かいます」

ガレーラカンパニーと言えば超巨大造船企業。社長は市長も務めるアイスバーグさんだ。そんなところから私のような小娘に依頼が入るなんて……こつこつと積み重ねてきた努力が報われたようなそんな気にさせてもらえてとても嬉しい。

案内されて通された一室、恐る恐る入ると中には白いタンクトップ姿の男が一人居た。スーツじゃないということは現場の人かな。……大工さん? でもシルクハットを被っているなぁ。…………どっち?

「あの……」

よくよく見てみると肩に何か……

「…………ハト?」
「ハトじゃない、ハットリだっポー」
「え……しゃべっ、えぇっ!!??」

食いつき気味に「この子お話できるんですか?」と質問をすると「そんなわけないっポー」と冷めた目で睨まれた。え…………なんで。

「ハットリの体調が優れないから見て欲しいッポー」

ハットリ……は、このハトのことで、で……ハットリの声を担当しているのがこのハットリの飼い主? で、その飼い主がハットリを心配して私を呼んだということ、かな?

「……分かりました。えぇと、では診察しますので、その子をこちらへ」
「その子じゃない、ハットリだっポー」
「はい分かりました! というか。あのう。ややこしいんでそれやめてもらってもいいですか?」

ハットリの話をしているのに飼い主ではなくハットリ目線で話をされたら何だか頭が混乱してきて……ややこしくて堪らない。ハットリを受け取って腕の中に抱き入れる。軽く触診をしながらここ最近の様子を聞くのはよくあるやり方で、飼い主とハットリの事を知るために必要なこと。そのためにも真面目に話をしたい、のに……。

「やだっぽー」
「……え~~」

いや、なんでですか!? と反論しようとしたときだった。

「あー悪い悪いルッチぃ! ちょっとそこで社長に捕まってのう」

勢いよく開かれた扉。ノックをした後に静かに開けてください。診察中です――と言いながら顔を上げたところで固まる。

「あぁ、すまんすまん! わしが悪かった」

清々しい謝罪、気持ちいいくらいに綺麗に下げられた頭。わぁ、なんて礼儀正しい人――と一瞬思考を飛ばした後、現実が目に入った。え? あれ、あの人じゃない? あれ、そうだよね。私がチンピラに絡まれていた時に助けに入ってくれた人ではないの……散々脳内で捏ねくり回していた人。ちゃんと現実に存在していた、良かった……。

「もう来られていたんか。ハットリの病状は……ん? なんじゃ?」

その再会の衝撃はすさまじく、ハットリを腕に抱えていたことをすっかり忘れていた。私の熱烈な視線を受けてぱちぱちと瞬いたその人が、ちょいちょい、と下を示した。「……?」その視線を目で追って、ようやく自分がハットリを思い切り抱き締めていることに気がつく。

「あぁっ!! ごめっごめんよ、ハットリくん!!!」

慌てて腕を緩めたその時――ごぽっごぽっ、ポーーーーン。と、何かが飛び出してきた。

「……何かが、」

ハットリの腹の中にあったらしい何かが、彼の口の中から飛び出して音を立てて床にぶつかった。拾い上げたそれは小さな鍵だった。

「……鍵?」

何の鍵だろうか。でも良かった。これで体調が悪かった原因が分かったし、無事に解消もでき…「あぁ゛!!!! ハットリ、お主だったんか! 鍵がない鍵がないとアイスバーグさんが大騒動しておった原因は!!!」……て良かったと思っていたけどな。

 

探していたなくし物だったらしく、これには飼い主のタンクトップさんもビックリしたようで「ハットリどういうことだ?」と素の声が出てきている。いい声してるじゃんか、何でわざわざあんな副音声を……。変な人。

肝心のハットリはまだ私の腕の中にいてプルプルと震えていた。こんな小さな体で震えて……なんだか可哀想になってきた。よし、加勢しよう。私は獣医、動物の味方である。

「あーだめですよ。そんな大声を出したら怖がってしまいます。……ほら、よしよし。……お二人とも、大人気ないですよ?」

大丈夫だよーとハットリを軽く抱きしめて落ち着くように撫でてあげる。これには目くじらを立てていた二人とも、ぐっと喉を詰まらせてすっかり大人しくなった。どちらも悪い人ではないらしい。それ以上ハットリを責めるようなことはしなかった。

「個体差はありますが、つい食べてしまう子もいるんです。できるだけ近くに置かないようにしてあげてくださいね」

そう言って、ハットリの口の中を確認する。

「口の中は大丈夫かな? お腹に変な感じはない?」

会話はできないけれど、この子は頭がいいようだから目を見ていればなんとなく良いか、悪いか、ぐらいは分かる。

「うんうん。そうか。じゃあ少し様子を見ようね。一応、お薬出しておくから、えぇ……と飼い主の、」
「ルッチっポー」
「…………ルッチさん、に出してもらって、ちゃんと食べるようにしてね」

若干の間はありつつも、渋々というようにハットリが頷いて返してくれて、なんとか問題の解決を無事に終えることができたのだった。

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