いびつなゆうれいをかじる

「…………え?」

一体何時から? 一体何時から、貴方はそこに立っていたのですか。貴方はそこから、ずっと……私と浮竹隊長のやりとりを見つめていたのですか。

「正直、目を疑った」

これは……、何というか、……かなり切羽詰まった状況なのではないでしょうか。早々に、市丸隊長に、助けを請いに行くべきかもしれない。

「だが…………、」

そんな私の思いを見透かされていたのか、右手を捕まれ引き寄せられて、藍染隊長の腕の中に迎え入れられた。

「何も変わらなかった」
「…………一体、何を、」
「目の前で起こっていることを頭で理解した瞬間に、私を支配したのは『殺意』だった。そのはずだったと思うのだが、……なぜか、いざなまえの姿を目の前にしたら、それは消え失せた」
「…………消え?」

あの猪突猛進気味だった藍染惣右介が、怒りをコントロールしたというの……? そんなこと、あり得ない。

「今も、私はなまえを抱いている、ただそれだけで幸せになれる」

まさか、ここまでとは……。鴻鵠こうこくが縛り付けた、藍染惣右介の人格は想像以上に、きっちりと嵌まっているらしい。でも、どうして私が鍵となっているの……? 術をかけたとき、私はそこまで詳細に指定はしていない。そこまで出来るほど力は育っていなかった。一か八かで、なんとか『強靱な力を、弱きを落とせない優しさに。彼自身が作り上げた孤独を、愛されているという安寧に』それだけを条件にすることができたのだ。藍染惣右介に足りないもの、それは他人を大切に思う心だった。だから私は、彼が愛されていると、そう思えるようにして、安心できる居場所を作って。それで…………。その時にふと、思い出した。『対象者はその時に最も欲しいと思ったものを一生追い求め続けなければならない宿命を背負う』という鴻鵠の言葉だ。

「…………まさか、」

「…………なまえ?」

腕の中から抜け出して、向かい合う。藍染隊長の両腕を掴んで、彼の両目をじっと見つめた。かつてのあの人のことをゆっくりと思い出す――彼は、私が鴻鵠の卍解を解放したとき、鏡花水月を抜かなかった。始解で破れるとは言え、十分時間稼ぎになるのに。それでも、彼は刀を抜かなかった。……いや、抜けなかった?

考えてもみれば、私は彼に何度か手を上げられることはあったけれど、それはどれもが意味のある行為で。冷たい眼差しだったけれど、暴力によって、私の心が彼から離れることはなかった。もしかして……彼は、私を…………大切にしてくれていた? ……そんなことって有り得るの? 彼がおかしくなり始めた後、彼は私に見向きもしなくなったから、私にはもう興味がないものだと持っていた。でも時折、気まぐれで相手をしてくれることがあって、それはすべて彼自身のためのことだと、ずっと思っていた。…………でももしも、その前提が違っていたら?

彼が、私から離れたのは、本当に興味がなくなったから、だったの? 彼が、私の頬をはたいたとき、私は何をしていた? 私は一人で勝手に自暴自棄になっていたんじゃないの? 本当に、彼が私から離れていったの? 私の方が、彼から離れていったんじゃないの……?

「そんな…………まさかそんなことって、」

単に、私が自己中心的に考えていただけで、彼は、強くなってしまった前も後も、ずっと変わらずに私のことを大切にしてくれていた……のかもしれない。だから、今、目の前にいる彼は『対象者はその時に最も欲しいと思ったものを一生追い求め続けなければならない宿命を背負う』という縛りの元、かつて『最も欲しい』と願った、私のことを追いかけ続けているんじゃないの?

「…………そんなのって、じゃあ私は…………」

私はなんてことを、なんてことを彼にしてしまったの?

「っ、」
「どうしたんだい。なまえ」
「あ……の、なんか、その、すみません。混乱してしまって、ごめんなさい。ちょっとだけ、時間を…………」
「あぁ、いくらでも。私の時間でよければ、いくらでも……」
「っ、~~~~」

貴方は、今も……そして昔も、ずっとずっと、優しかったのかもしれない。ただその形が見えづらかっただけで。私が踏みつけてしまっていただけで。貴方はずっと、私のことを大切にしてくれていたのかもしれない。

「…………わたし、最低だ」

なんて傲慢なことを。あぁ、会いたい。かつての貴方に、会いたい。もう一生会えない貴方に、会いたい。懺悔したい。私の初めての貴方。貴方はもう、存在していない。今、目の前にいるのは、貴方の形をした、貴方ではない別の人。そうだと分かっているのに。その顔で微笑まれるだけで、脳裏に浮かぶ。…………狡いよ。あぁ、でも……私の方が狡いんだよね。…………惣右介。ごめん。ごめんね。もうきっと届かないだろうけど、何度も言うよ。ごめんなさい。せめて、私はこれからもずっと、この人傍にいるから。もう割れてしまった瓶底は直せない。そこからトロトロと落ちていく蜂蜜がなくなってしまうことがないように、私は自分の勤めを果たそうと思う。それが今の私に出来る、最大の懺悔だから。

「…………確かに。君は最低だな」
「…………ごめんなさい」

私とこの人の間は何百年経っても一生埋まることはない。だって、二人の間にはずっと懺悔と後悔が付きまとうことになるから。純粋な愛になることはもう有り得ないだろう。私はもう割れてしまった。たっぷりと満たされた瓶の中で微睡み笑う合うことはできたとしても、ほんの束の間の幸せとなるだろう。だって、穴は空いたままなのだから。

「ふっ、」

首筋を手の平が這った。そのすぐ後に、藍染隊長の唇が私の唇に重なった。甘い刺激に、つい先ほど感じていた感覚が呼び戻された。悔しいが……キスは藍染隊長が一番上手い。永遠に続けていたいと願うほどに微睡むような、甘い刺激が永続的に脳を犯してくる、強すぎない刺激が、段々と先を望むようになってくる。彼はそういう忍耐だけはずば抜けてあるから、ずーっとずっーっと、私が望むまで、ひたすらにキスを続けるのだ。

「っ、はぁ…………ん、」

でも今日は、少しだけいつもと違っていた。彼がやたら首筋を撫でるのだ。指の腹でやわやわと揉んだり、撫でたり、同じ所ばかりをやたら触る。だから気になってしまって、つい、聞いた。「なぜ同じ所を……?」と。すると、両目の中の瞳、……いや、虹彩をグッと大きくした隊長が言った。

「ここに、あるからさ……」
「…………一体何があるのですか?」
「決まっているだろう……?」
「…………?」
「あの男と何をしていた?」
「え、あ……その……」
「嘘をついてはいけない。『ここ』に証拠が残っているからね」
「っ、!?」

ハッ――として、思わず首元の『それ』を手で覆った。

「ずいぶん楽しんでいたようだったけど。君はあぁいうのが、いいのかな?」

かぁぁああ――顔面に熱が集中して、一気に体温が上がる。あのやりとりをずっと見られていた。…………恥ずかし過ぎるっ!

「でもね、私は怒っていない。むしろ、感謝しているくらいだ。…………どうしてか分かるかい?」
「…………」
「『これ』はね、君を責め立てる、理由だよ…………」
「っ、」
「さてはて。いけない子は何処にいるのかな?」
「あっ、ちょ……!?!?」

くるん、と体を回されて、後ろから羽交い締めにされる。

着物の脇の隙間から、手の平が忍び込んできて、迷うことなく膨らみの先を摘まんだ。

はぁんっ――

思った以上に大きな声が出てしまった。慌てて唇を噛み締める。

「いいよ。声を出したって。私は別に誰かに見られたって構わない。むしろその方が手っ取り早いくらいだ」

「ん、~~~~!!!!!」
「君が悪いんだよ、なまえ。悪いことしたんだから、素直におしおきされないと、…………ねぇ?」

耳の後ろから藍染隊長の低音が、脳を優しく揺さぶる。この人の声はまるで麻薬のようだ。聞いているだけでおかしくさせられる。

「どうした? もっと責めた方がいいのかな?」

ちゅ、と耳の後ろに口付けが落とされて、耳たぶを弄ぶように舌が這う。

「ふっ、うぅ…………」

声を出すわけにはいかないのに……!

「さぁて。どこまで耐えられるかな……?」

左手がくびれに触れた。そのまま腰をなぞりながら脇の隙間から入ってくる。太ももに彼の手が触れて止まった。今日は正装ということで、湯文字だけしか付けていなかった。なので触りたい放題で……。

「おやおや。これはご丁寧に。私のため、かな?」
「っ、違います! 今日は副隊長としてのお招きでしたので!」
「相変わらず真面目だね。でも、これだと誰でもすぐに……「普通はしませんって」…………えぇ? 君がそう言うの? 浮竹とあんなことをしていたのに?」
「……っ」
「知っているよ。ギンとも仲がいいんだろう?」
「…………え?」
「気付かない訳がない。君たち、あんなに近くにいるんだから」
「それは……っ、あ……んっ」

堅く腰に巻いていてはずの湯文字が解かれてストンと落ちた。これで着物の下にはもう何もない。手を差し込めば大切なところにすぐに手が届く。藍染隊長は迷うことなく茂みに手を置いて、ぬるりと指を差し込んだ。そこは当然の如く蜜で溢れていて、待ったなしで数本の指が穴の中に差し込まれた。

「ふっ、んんんっ!?!?!?」

ぐちゅっ、ぐちゅっ――

卑猥な音が激しく音を立てる。下から上に容赦なく突き上げられた。逃げる腰はぴったりと後ろに張り付いている隊長によって位置を戻されて、両手を使おうとしたら縛道で後ろ手に固定された。こんなことに詠唱なしの鬼道を使わないで欲しい……! 何でこの人こんなに器用なの……!?

「あぁ……足が震えてきたね。そろそろイキそうかい?」
「っ、」

逃げ場がない。逃げ場が欲しい。快感が行き場を失ったまま体の中で暴れ回っている。それを吐き出せるのは己の口だけ。でも……、声を出せば誰かが来てしまうかもしれない。グッと唇を噛み締めた。己の意思とは関係なくガクガクと震えだした足がもう限界だと言う。だめ、だめだめだめ。声は出せない。出してはいけない……!

「よく我慢できているね。でも……」

胸を弄っていたはずの隊長の片手がいつの間にかなくなっていた。上の快感がなくなってほっとしたのもほんの束の間。

「こっちを触ると、どうなるかな……?」

穴の中に差し込まれた指はまだ激しく律動している。その最中、おざなりになっていたね、ともう一つの性感帯がつん、とはじかれた。

「はぁっ、っ~~~~」
「あぁ……やっぱり、なまえはクリトリスが弱いねぇ」
「んんっ、……め、だめ、だめっ!!!!」
「ちゃんと皮を剥いて触ってあげるよ……あぁ、なんだ。もう綺麗に剥けているのか。自分で剥いたの? やらしい体だ……。あぁ……それよりも。なまえ、声出てるけどいいのかい?」
「っ、あっ――だめ、がまん、しなきゃ……」
「そうだね。我慢しなきゃ」
「ふっ、ふ……ふ……ん……」
「我慢してて偉い偉い」

穴に更に指が足された。ぐぐっと押し広げられて壁の気持ちいいところを擦り上げられる。上にも下にも動く度に良い所に当たるのだ。一体何本の指が入っているのか。突き上げられてクリトリスも一緒に捏ねくり回されて、もう訳が分からなくなっていた。

「はぁ……待って! だめ、だめ! んんんっ!! めっ、あ……はぁんっ。……たいちょ。やめっ……止まって。あぁ……だめ! 気持ちよすぎ、おかしく……なるっ、だめ、やっ、はぁああああんんん!?!?!?!?!?」

ちかちかと瞬いた視界が真っ白になった。叫び声と共に全身の力が抜けた。くたりとその場に倒れ込む。

「あーぁ。これまた盛大な声でイッたね……」

ふ、と背後から藍染隊長の満足そうな声が聞こえた。頭が回らない。何も考えられない。

「結構大きな声だったから、誰か来るかもしれないね。あぁ、どうしようか。このままなまえの姿を見てもらおうか? それか……この状態のなまえをここに置いておくのでもいいかもしれないね。みんなどうしたのかって、来てくれるよ。でもまぁ……普通の男なら気付くだろう。こんなに雌の匂いがしていたら、この女はここでオナニーをしていたんだって思うだろう。なまえはこれから先、その人からはずっと『そういう目』で見られるようになるんだ。それもまたおしおきとしてはいいかもしれないね」

藍染隊長が饒舌に話す言葉をぼんやりと聞いていた。話は聞けるけど、全然頭に入ってこなくて、一体何の話をしているか、理解しきれない。今はただ余韻が強すぎて。

「そうすけさん……」
「ん……? なんだい」
「きもち、よかったです……」
「…………まったく、君って子は……」

にへら――と笑うと、藍染隊長が困った顔をしていた。なんで顔をしているのだろう。

「そういうあざといところは私に似たのかい? それともギン? いや、あいつは君には優し過ぎるか。……あぁ、私だね、きっと。……可愛い子だ」

後ろからぎゅうと抱き締められて、幸せが体を包み込んだ。まだふわふわしてる。

「このままお持ち帰りしてしまおう」
「ん…………」
「今日は可愛がってあげるから覚悟しておいてくれ」
「…………はぃ」

藍染隊長はそう言うと私を抱き抱えて闇夜に消えていった。

:
:

20231103 End.

:
:

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!