03

無事にクザンさんの施術が終わり、シャワーを浴びるのを待って見送りをする。

「なまえちゃん、タオル忘れた」
「ちょっと、もう何回目ですか、それ」
「いいから~」

はいはいと心底面倒だという声を出しながらバタバタと準備する。次の予約の人の準備を一端中断して、クザンさんのお世話に回ることに。

「ここ、置いておきますよ?」
「ん、さんきゅ」

そっと脱衣所に入り、籠の上に一式を置く。おかしいなぁ。確かここに置いたと思ったんだけど。その時、ガチャン、とシャワー室の扉が開いた。

「ちょ、クザンさん待って下さい! 私が出てからにして……」
「別に知らない仲じゃあるまいし、いいじゃない?」
「よくない! 良くないですって!」

ぺたぺたという足音が聞こえてくる。とっさに背中を向けた。

「なまえちゃ―ん?」
「その手にはのりませんからね」
「もう、つれないなァ」
「はいはい、つれなくていいですから。それよりも早く服着て下さいよ? 次の予約入ってるんですから」
「予約?」
「はい」
「ふ~ん。……カク?」
「違います」
「……じゃあ、ボルサリーノのおっさん?」
「ちょ、おっさんって。失礼ですよ。世間からすればクザンさんもおっさんなんですからね」
「もう、酷いなぁ」

あぁだの、こうだの、と言い合いを始めて数分。コンコンと部屋の外の扉を叩くノック音がした。はーいと返事を返す。

「なまえそろそろ時間よ」
「はい! 分かりました!」

どうやらなかなか出て来ないのでカリファさんが心配して来てくれたみたい。腕時計を見ると、もう予約の30分前。そろそろ部屋の掃除を始める時間だ。

「クザンさん、そろそろ……っ、!?」

び、びっくりしたー! と思わず声を上げる。いつの間にか着替えを済ませていたクザンさんが腕を掴んで勢いよく後ろに引き倒した。トンと背中にクザンさんのお腹が触れる。そのまま顔を逸らすようにして見上げるとこちらをのぞき込むようにして首を曲げたクザンさんとかっちり目が合った。頬に彼の手の平が優しく触れる。

「……相手は誰?」
「……誰だっていいじゃない」
「ダメだよ。君は俺のものなんだから」
「こら、どの口がそう言ってるの。彼女さんいるんでしょう?」
「それはそれ、これはこれ」
「もう、」

にっこりと笑いながら近づいてくる彼。特に抵抗することもなく、静かに目を閉じて受け入れる。あと少しで唇が触れるという時だった。

リリリリリ――

ベルが鳴った。その瞬間、まるで魔法にでもかかっていたようなそんな甘い空気が吹っ飛んでいった。くるりと体を回して向かい合い、なお腰に手を置いたままでいる彼のお腹を少し強めに押した。

「はい、おしまい」

にっこりと笑う。そうしたら、残念そうに眉を寄せたクザンさんが苦笑いを浮かべながら言った。

「また来るよ」
「はい、是非」

頬に触れた手の平に自分の手を重ねる。またお越し下さい、とお決まりの台詞を言ってゆっくりと頷けば、君には敵わないなとクザンさんが言った。

「見送りはいいよ。じゃあね」

はい、と返事を返す前に、素早い動きで腰を折ったクザンさんがちゅ、と手の甲に優しいキスを落とした。その動作になんだかむずむずしてしまって、ほんの少し頬を染めたら「今日はこのくらいで勘弁してあげるよ」とクザンさんがそう言い残して部屋から出て行った。

相変わらず、素敵な人だなと一人小さく笑った。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!