当たり前だった日常がいつの間にかなくなっていて、怖くて私は光を探した。だけど、どこにも差し込む光はなくて。私はただただ待つことしかできなかった。いつか、光が射し込むことを信じて――
小さな、小さな声で歌を歌った。
「なまえ」
その声に振り返る。どうやら目を覚ましたらしいその人はとても気むずかしい顔をしていた。どうしたというのだろう? 小さく首を傾げる。ゆっくりと靴を鳴らしながら私の隣まで近づくと変なことを言い出した。
「名を呼んでくれ」
「へ?」
ちょ、どういう意味? 無言でこちらを見続ける彼はそれ以上言うつもりはないようで、仕方なく言うとおりにする。
「ミホーク?」
え、これでいいんだよね? ただ名を呼んだだけなのに、ミホークったらなんかどうしようもなく嬉しそうなんだけど。そのまま遠慮なく抱きつかれてしまい、私は動けずにいる。
「ミホーク? どうしたの?」
「なまえ」
「何?」
「続きを歌ってくれ」
「――っ、聞いてたの!?」
嫌よ、私音痴だもん! と全力で拒否したらなぜか楽しそうに笑われてしまった。
「ちょっと、失礼でしょ!!」
「いいから、歌ってくれ」
耳元の甘い甘い囁きに折れた私は苦手な歌を披露することになる。どうせ馬鹿にするくせに。でも……クスクスと笑いながらも優しく抱きしめてくれる彼がそう言うなら……それぐらい我慢しようかなと思ってしまう。それぐらい、彼のことが大好きだった。
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私が思い描いていた理想の人はごく普通の一般の人で何か、なんでもいい。何か好きなことに没頭していて、その合間に私を愛してくれる人だった。笑顔は素敵な方がいいけれど、よく笑う人よりはたまに笑ってくれる人の方がときめいた。変わっていると言われたらそうかもしれない。でも、追いかけられるよりは追いかけたい。そう思っていた私にしてみればそれが普通なのだった。
理想の人は思いの外、早く見つかった。けど、少し違っていた。その人はごく普通の一般の人ではなく。ちょっと人より秀でている……いや、かなり秀でていて、特殊な立場の人間だった。
そう……、その人こそ、王下七武海、鷹の目のミホーク。今目の前で私の顔をずっと凝視しているこの人なんだけど。何、何なのよ? 一体、どうしたと言うの? 感動の再会を果たしてから数日。なんであれが感動の再会だったのか、記憶の混乱でそれすらももう分からなくなっていた私はひたすら困惑していた。
この野郎が私から離れてくれない。
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「あのさ、トイレに行きたいんだけど」
「……よし、行こう」
「いやいやいや」
「なんだ? やめるのか?」
「いや、ちょっと待って」
トイレに行こうとする度にこれである。それ以外は無論ベッタリ引っ付いてくる。常に私の半径1メートル以内にその人はいるのだ。
「だぁ~!! もう! 昔私言ったよね? 追いかけられるよりは追いかけたいのって! 覚えてる?」
「あぁ、覚えている」
「なら分かるでしょ? こうも引っ付かれたらうんざりするってぇの!」
はぁはぁと息を切らし、肩を上下させて大声を上げたのにこの野郎はチラリとこちらを見るだけだ。その上……
フッ――
笑いやがった。
「こ、こ、こん野郎~~!!」

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