なまえへの気持ちが変わった決定的な出来事というものは特に思い浮かばない。ただ城での生活を毎日、一緒に過ごしていただけだった。
羽根のことを知ってから、暇つぶしがてらになまえの昔話を聞いた。なまえはよく笑うようになった。ようやく、本当の彼女を見た気がした。そして、その反面、暗い過去を持っていることも知った。
考えてみれば故郷に見放され落とされたのだ。それは心の傷となっただろう。結局なぜ落とされたのかはこちらから聞けなかった。
ある夜、少しワインを飲み過ぎた俺はなんとなく、そばにあった細い腕を引き寄せてみた。そうしたら、抵抗することもなく、腕の中に小さな体が収まった。ゾクリと全身に欲が走った。
視線を下げると、パチパチと瞬いているなまえがどうしたのですか? とこちらを見上げていた。唇を寄せ、唇に口付ける。
「っ、!?」
それでようやく気がついたのか、なまえは抵抗しだした。
「いや! いやいや!!」
「なまえ、」
急だったので嫌がるのは当然だとは思うが、そんなに嫌がられるほど無理矢理にキスを落としたわけでもなかった。何か頭の隅にひっかかる。
「なまえ!」
名を呼び、なまえの目をのぞき込む。
「私、そんなつもりじゃ。知らない。誘惑なんてしてない。分からない。やめて、怖い、嫌だっていったのに……なんで……」
揺らぐ瞳はここを見ていない。
「なまえ、ここは俺の城だ。今お前の前にいるのはお前の主、ジュラキュール・ミホークだ。俺がそんな酷い男だと思っているのか?」
諭すように甘い声色で、ゆっくりと語りかける。そうすると、ふっとなまえの体から力が抜けていき、なまえの瞳が俺の瞳を捕らえたのが分かった。
「あ……、ごめん、なさい。ミホークさん」
「いい、今のでだいたいのことは想像がついた。悪かったな」
腕を解放する。やはり飲み過ぎるといかんなと体を起こそうとしたときだった。ボフッと腹の上に体を押しつけてきたなまえが腹に抱きつきながら言った。
「ミホークさんになら……ミホークさんに抱いてもらえたら、私は忘れられるかも、しれない……です」
そうか……、一言だけ返してやる。クィッと顎を上に上げさえ、先ほどよりも深く口づけてやる。小さく体を震わせているなまえを抱え上げ、ベッドへと連れていった。
素肌を近くで見て気がついた。いくつもの傷がある。おそらく、そういうことなのだろう。腕にあった傷をヌメリと舐めとる。癒してやれればいいのだがな。俺には無理な話だ。
小さく体を震わせたなまえは羞恥で顔を真っ赤に染めていた。
「ん、はっ……」
「傷が性感体か?」
そう言って、体のあちこちにある傷を丁寧になめとってけいけば面白いようになまえが喘ぐ。あぁ、いい声だ。太股の傷を最後に全身の傷を舐め終わった後、そろそろだろうと、今度はもうすでに濡れきっている部分に舌を這わした。
「あっ、待って。そんなところ、舐めない、でっ!!」
クチュ、クチュとなる音がなまえが感じている証拠だろう。舐める必要もなかったな。ペロリと口の端についた愛液を舐めとり、そのままなまえに口づける。
「どうだ、自身の味は」
「っ、……」
こちらを見つけるなまえはなんと応えたらいいのか分からないようで、羞恥で顔を真っ赤に染めてただただこちらを見つめていた。頬をひと撫でし、指を入れて確かめた後、ゆっくりと挿入していく。
「あっ、んんっ」
どうやらかなり感じる方らしいな。一気に体温が上がる。んん、はぁ~と吐き出される吐息に脳が支配され、酒のせいも相まってか、最後の方は気遣ってやれなかった。
終わってみれば、ずっと怖い怖いと思っていたものは全然怖くないものへと変わり、はぁと息を吐き出す隣の人は「すまない」と声を出して謝ってくれた。なんだかそれがおかしくて笑ってしまう。
「なぜ笑う?」
「……いつもの堂々としているミホークさんがそうやって、反省しているので珍しくて……」
「誘ったのはお前だぞ。今更取り返しはつかないが、よかったのか?」
「……はい」
ポンッと風呂の栓が抜けたように、溜まっていた不安、恐怖が流れ出ていった。
「そうか」
目を細めたミホークさんはでは今日からお前は俺の付き人ではなく、俺の女だなと小さく笑った。
「はい」
その抜けきった風呂に再び栓をしてくれたのはミホークさんだった。そうして、たくさんの愛を注いでくれて、消えた水もすぐにいっぱいになった。
えへへ、好きな人ができました。

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