「どうしたいか?」と聞かれてから数日。
特に何もなかった。それが良いのか悪いのかも分からない状態。気持ちが沈むことも上がることもなく。この精神力の強さ……シャンクスのおかげかな。「さすが四皇だ」独り言ちる。
とにかく、私は元気に過ごしている。
身構えていた『能力』に関するお話もなく、平穏だ。大変有難い。あーでも……逆に、どの程度の人まで知っているのかが分かりづらいこともあり、自分から進んで話しかけるのは控えている。何が発端で枯渇――主への執着、が始まるかもわからない状態なだけあって、余計なことはしたくない。これ以上はご迷惑をおかけしたくないという心境である。
ただ1点、問題がありました。――恐ろしくやることがない。
お客として来ている身のため、仕事はしなくてよいと言われている。でもするなとは言われていないから何かしらはやりたい。タダ飯食らい程、落ち着かないものはないと思うから。
女の身でできることは限られている。非力だし、……あ、でも、シャンクスの覇気を打ち消せたんだから、それなりに……? いやいやいや。だめだ。戦闘したこともないド素人じゃ足手纏いになるに決まっている。隊長が豊富に所属している白髭海賊団に戦闘員で参加って……意味が無さすぎる。どうせならもう少し有意義なこと……私のわがままですね、はい。
考えてみたんだけど、シャンクスのところでは『お相手』をするのが仕事みたいなものだったし、今回もそうした方がいいのかなと、そこに落ち着いた。
忌避感? というものは全くない。むしろ好意を持っているくらいだった。悪魔の実の能力の影響? それとも元々そういう性格だった? 記憶が怪しくてもはや分からない。お相手になってくれる人はどの人も大切に扱ってくれたから、嫌な思いをしたことはなかった、というのも要因のひとつだろう。これから先もそうなるとは限らない、んだけど。
「おねーさん!」
甲板の上、振り返ると白い服を来たリーゼントの男が一人。
えぇっ~~と。……確か。
「サッチ……?」
「正解」
両手に抱えていた紙袋を抱え直してまでグーを出す感じからして、剽軽者のように見えた。第一印象は、料理場での真剣な眼差しを見ていたので、クールな人かと思っていたが、そうじゃなかった。嫌みのない軽い感じは、ここ数日沈みがちだった私の気持ちを軽くしてくれる気がして、つい話を続けたくなる。
「買い出し……?」
でも島に止まったって話は聞いていない。
「そうそう。傘下の船からもらったやつ」
……そうか。白髭海賊団はでかい。組織として大きく、傘下の海賊団があるくらいだ。シャンクスのところとはその点も異なっている。神妙に考えこんでいたら、サッチが心配そうに「りんご食べる?」と紙袋のなかの赤い果実を差し出してきた。
「えっと……?」
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場所は変わって食堂内。お昼ご飯の雑踏は過ぎ去って、今は小休憩中だ。
「悪いな。手伝ってもらっちゃって」
「いいえ。私で良ければいつでも!」
私は、念願の働き場を見つけていた。
「はい、まかないね」と先ほど頂いたオムライス on サッチ特製デミグラスソース。それも、最高に美味しい料理が食べられるという特典付き! 断る理由なんてない!
「そうか? じゃあ、良かったら毎日……「喜んで!」……お、おう。助かる」
勢い良く立ち上がって返事を返す。苦笑いするサッチを気に留めることなく、座って食事の続きに手を伸ばす――と、
「昨日、親父に呼び出されて話は聞いた」
「?」
話とは、と聞き返す間もなく。
「お前さんの事情について、隊長らは知っている」
「では、隊長以外は知らない、ということですか?」
「おう、そゆこと」
「…………よかったァ~~」
ぐぐ~~と両手を伸ばしながら机の上に覆いかぶさる。行儀が悪いと言う嘗ての主は傍にいない。今いるのは、「野郎に集られる的にならなくてよかったな」と笑う彼のみだ。
「えぇ、ほんとうに、まったくその通りで」
世に言う延々と回されるんじゃないか、ということも、来たばかりの初日には考えたのだ。でも、あのシャンクスが大丈夫だと言ったし、ここの人たちは海賊の流儀とやらに忠実で、私のことを尊重してくれる。だから、そんなに心配はしていなかったけど、はっきりと言われたことでとても安心した。そんなつもりはなかったけれど、どうやら気を張っていたらしい。
「何か決まったことはありますか?」
「ん~~そうだな。マルコが『どうしたいか?』って聞いたら『分からない』と言っていたから、時間をやった方がいいと言っていたな。そうなのか?」
「わぁ~~本当に全部報告されるんですね、その通りです」
「親父が一番だからな。基本的に、情報は共有する」
船によって本当に違う。シャンクスのところは細かいところは各々に任せている感じだった。少数精鋭だからそんな感じなのかな。
やりたいこと……ふと浮かんだのは、この能力を制御できるようになれないかってことだった。例えば、主を自分で選べるようになったり、貰った力を継続的に使えるようにして、上書きされてしまわないようにできたり、とか。
「……どうした?」
「ちょっと思うところはあるんですけど、一人ではできないことなので、協力してもらいたいです」
「協力? 内容によるが……こんな可愛い子にお願いされたら誰だって頷くと思うぜ?」
「――っ、茶化さないでください!」
困ったことに、この手のからかいには慣れていない。
「……で、内容は?」
「ここではちょっと……後で、お話しする場を設けての方が、」
「え~~いいじゃねぇか!」
「でも……」
「じゃあ今夜は俺のところに来るか?」
「……はい?」
「なまえちゃん、だっけ? ドストレートで好みなんだ。良かったら、俺と一晩楽しく過ごしてくれねェか?」
こんなにも真っすぐで綺麗な瞳で、最高に清々しく閨にお誘い頂いた私は、すぐに言葉を返すことが出来ず、顔を真っ赤に染めてまるで初心な女の子のようになってしまった。
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その日の夜。私はサッチの部屋の前に来ていた。
約束していた時間を過ぎても彼が来なかったからだ。今日で良かったよね、時間も間違えていないよね、と不安になりながらも、部屋の前で右往左往する。気が変わった、とかかな。それなら帰った方が……? ――と、
キィ――と音を立てて扉が開いた。
「ふぁあ~~。なんか用か?」
出てきたのはサッチじゃなくって、炎拳のエースだった。
「あれ? 部屋を間違えた……?」

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