29:召使いの旅立ち

「大変、大変、お世話になりました! このご恩は一生忘れません!」

深々と頭を下げて顔を上げる。

「こちらこそ、楽しい時間をありがとうよい」

にっこりと微笑む一番隊隊長と、その後ろには……。お見送りをするというご好意で甲板に並んで下さった隊長達。どの人もちらりちらり視線をこちらに向けながら、顔は背けている。何故かすっごくよそよそしい。あからさま過ぎる。……なんでなの? 私、何か……しでかしたっけ。

「……あのう。なんで皆さんそんなに顔を背けるので……?」

「……あはは。いや、まぁ……昨日の『あれ』が相当だったからさ」

マルコの隣に並んだサッチが歯切れ悪く答えた。

「昨日の……?」

昨日……昨日……。昨日……って、まさか!

バッ――と勢いよくマルコの方に顔を向ける。彼は大きく頷いた。声はなくとも分かる。「あぁそうだ、昨日の俺たちの……」と彼の目が言っている。

一気に全身に広がる熱の波。顔面を真っ赤にしながら、嘘でしょう? の辺りを見回したら、どの人も私の方を見ながらちょっと気まずそうにしている。

「え、待って。防音は! 壁、それなりにあるって聞いて……」
「……あるけど、昨日のは、流石に」

もごもごとエースが答える。その隣に並ぶイゾウは視線が合うといい笑顔になった。……あぁ、彼はそういうの恥ずかしくないタイプらしい。……うん、なんとなく納得出来る。

……あぁもう、最後の最後でやらかしてしまった。いつも去り際が最悪な気がする。

「……悪い。俺も後でコイツらに言われてやり過ぎたことに気が付いた。ほんとすまなかったよい」
「あはは……」

もう笑うしかない。

「えぇっと……そのう……」

お別れの言葉。一人一人になんて言うかちゃんと考えていたのに、見事に全部吹っ飛んだ。…………くそう。

「それはさて置き、ほんとうにいいのかい?」

まぁまぁと気を取り直すように励ましてくれたマルコが話を変える。

「あ……はい。少し、自分で旅をしたいと思ったので」
「……大丈夫なのか?」

彼は心配そうに眉を寄せてくれる。他のみんなも何処か不安げだ。……私はほんとうにいい人達に出会えた。

「大丈夫。みんなのおかげでチカラの使い方もだいぶ分かったし、航海の知識もしっかり学んだよ」
「……だがなァ」

サッチが腕を組んで唸り声を上げる。

「……うん。きっと真っ直ぐに海軍本部には着かないと思う。でもね、自分の足で歩いてみたいと思ったから。ちゃんとした旅っていうのを自分でしたいと思うんだ」

何度か瞬いた後、両眼を見開いて、両足を踏みしめる。

「私は一人でも大丈夫」

マルコを、サッチを……エースにイゾウを、お世話になった一人一人の顔をゆっくりと見て回る。今度こそ、その誰もが真っ直ぐに見つめ返してくれた。少しだけホッとした。

:

「……おめェらァ、心配なのは分かるが、この嬢ちゃんの覚悟も汲くんでやれよォ」

ヌッ――と現れた巨体。ゆっくりと顔を上げた。現れたのは白髭海賊団船長、エドワード・ニューゲートだった。

「船長――この御恩は一生忘れません」

深く、深く頭を下げた後、ゆっくりを顔を上げる。白髭海賊団のお世話になれたことは私にとって一つの転機となったと思う。

「グララララ――いい面になったじゃねェかァ!!」

目尻の皺がぎゅっと寄る。船長は空高く顔を上げて豪快に笑いながら、私の背中を押してくれた。

「……はい。お世話になりました」

深く頭を下げた後、甲板から桟橋に降りていく。

ここはシャボンディ諸島ではない。ここは諸島付近の海域にある島のひとつだ。諸島に行き着くまでに旅をしたいという私の要望を彼らは聞いてくれた。それならば……と比較的平穏な島らしいここを紹介してくれた。

彼らは別れの言葉を言わなかった。だから私も言い損ねてしまった。でも、それで良かったのかもしれない。私たちは、ほんの僅かな時間、瞬くような時を過ごした。ただそれだけだとしていた方がお互いのためなのかもしれない。私の背後には、シャンクスが……ミホークが……いるんだから。

:

遠くなっていく船影をしばらくの間、見つめた。

「さようなら」

小さく呟いた言葉。ひとつのけじめとして言った。いつかまた会ったとき、彼等が私の敵として現れたら、私はどうしたらいいんだろう……ね。そんな事を考えながら、私はひとりしみじみと海を見ていた。

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