30:召使いのひとり旅

まさか私がひとり旅をする日が来るなんて。

ミホークのところにいたときは、城から出ることもなかった。一日中ベッドの上で過ごすことも多かったくらいだった。そんな私が……、まさかこうして全く知らない島の中をひとりで歩くことになるなんて。

幸い、お金はあった。

ミホークが準備してくれていたのだ。……まぁ、正確には、ミホークがシャンクスに私の世話を依頼したときの依頼料を、シャンクスが白髭海賊団に払って、白髭海賊団は受け取った残りの部分を私に還元してくれたのである。揃いも揃って海賊のくせに、いい人すぎる!

その金額は結構なものだった。逆算すると、もともとミホークがどのくらいを見繕っていたのか、少し気になるところではあるが。それは、会って本人から聞くことにしよう。そんなことより、今考えるべきことは……。

「あのう……すみません。この辺りで、そこそこいい宿屋ってありますか」
「あぁ? 宿屋かい。ん~そうだなァ。嬢ちゃん、ひとりかい?」
「え? あぁ、はい。今夜はひとりですね」
「なら、向こうの通りにある宿がいい。お嬢ちゃんのような子が泊まれるくらい、治安がいい」
「……ありがとうございます!」

適当に声をかけた露天の店主が丁寧に説明してくれた。……なるほど。これは女ひとり旅ということを知られない方が良さそうだ。とても良い情報を得ることができた。お礼に露天に並ぶ食べ物を買うことにする。

「はいよ。まいどあり!」

焼きたての串焼き肉! 外で食べながら歩くなんて、そんなことをしてしまっても大丈夫……? 辺りを見回すとちらほら同じような人がいて、みんな美味しそうに頬張っている。……これが、普通なんだ。

口に運んだ肉はあつあつで、油がトロリと落ちていく。焼いただけなのに、どうしてこんなに美味しいのだろうか。味付けは、塩? となんだろう……何かのスパイスがかかっているようだった。ちょっと辛いけど、美味しい!

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宿屋に着いて一番にやったこと。

自分の髪を切った。胸元くらいまであった長い髪をばっさりと、ぎざぎざに。帽子を被ったら男に見えるように。……それでも、体格までは変えられないので、どうしても女らしさは出てしまうけど。まぁこれくらいなら『ちょっと女っぽい男の子』くらいで納まるんじゃないかって思う。あぁ……自分で言っていて悲しい。

……よし、今夜はゆっくり休んで、明日、これからのことを考えよう。

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「…………ん? おい、本当にここで合ってるのか? ……こいつ、男じゃないか」
「いやそんなことはねぇ……あれ、髪が……いや、顔は間違いねぇ。切ったんだ。せっかくいい髪してたっていうのに……勿体ねェなァ……」
「まぁ、髪くらいまた生やせばいいだろう。それより、目を覚ます前に早く……」
「……あぁ」

微睡みの向こうで聞こえていた会話。それが自分のすぐ傍で現実に行われていることだと気が付くのに数十秒の時間を要した。完全に油断していた。

「でもさ、男だったら困るだろう? まだ時間あるし、ちょっと確かめてみないか」
「…………確かに、それは困る、よなぁ~~」

いつでも動き出せるように思考は動いていた。隙ができるまで待つつもりだった。……が、それは掴まれて連行される場合で、この状況でまさか襲われようとは誰が思おうか(後で割と普通のことって知ってどれだけ驚いたことか)。

被っていたシーツごと、上の寝間着を剥ぎ取られた。恥ずかしいという感情はないが、何がどうなってそうなったのか、理解するのに時間がかかる。戦闘の実戦経験はないが、白髭海賊団で組み手を教わっていたから、少しなら対人戦もできる。だから、覆い被さってくる男の腕を捻り上げようとした。……だけど。

「はいはいは~い。無駄な抵抗はやめようか?」

相手が大柄の男二人とあっては流石に勝てない。使える悪魔の実の能力は小さな炎を出す程度。覇気もまだ見聞色をかじった程度。今の私は体力、筋力がそこそこあるというだけの女。精一杯暴れてみたところで……立たされて後ろから羽交い締めにされたら動けるわけがなかった。

「やっぱり女だ。……綺麗ぇな肌、してんなぁ」
「なぁ……こんな上玉なかなかいねェだろう? ちょっと俺たちで味見しねぇか?」

こくりと頷いた男が迷うことなく肌にひたひたと触れ、舌が這い回る。全身に走る嫌悪感。私の身体はしっかりと調教されてしまっているので、いつどこで誰に触れられようが、まったく問題ないのだと思っていた。……と、いうのも……今まで私のことを抱いてきた男達にはじめて触れられたとき、『気持ちいい』と感じたのだ。だから、そういう風になっているものだと思っていた。……なのに。

「っ、いや!! いやっ!!」

身体が悲鳴を上げる。触るな、私に触れるな!!

「触るなァ~~!!」
「っ、うるせぇなぁ! ちょっと黙ってろ」

布を巻いた猿轡さるぐつわをかまされた。あぁ――私はこんなところで負けるのか。折れるのか。……いやだ。こんな屈辱、嫌だ――

その時だった。

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