結局、ローとは半ば無理矢理に別れる形となってしまった。
「何もあんな風にしなくても……」
「何言ってんだ。あぁでもしないと、あの男は引き下がらなかっただろう?」
港から町の中心部へ続く長い道のりを、サボと並んで歩きながら言い合う。
「……そんなことはないと思うけど」
「そんなこと、ある」
私の知っているサボは頑固な人だった。この感じだと、大して変わっていないようなので、早めにこちらから折れておこうと思う。
……本当は、もう連絡を取るつもりはなかったんだけど。そう思いながら、懐に忍ばせてあった電伝虫を一瞥する。連絡どころか、この町を出るときには捨ててしまおうとすら思っていたくらいだった。だけど、別れの後味が悪すぎたので、謝罪の連絡だけは後で入れておきたいと思う。本人が出てくれなくとも、ペンギンやシャチくらいにでも伝えておきたい。じゃないと私の気が済まない。……ははっ、私も人のことは言えないね。サボと同じく頑固なことを考えていた――つい笑ってしまった。
「……なまえ?」
「ん? あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「折角だ。飯でも喰いに行くか?」
「うん、是非!」
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ご飯を食べながら、サボがどうしてこの島に来ていたのかを聞いた。
詳細は言えないらしいが、何やら偵察に来ていたらしい。仕事を終えて、記録も貯まったので、船で帰ろうとしていたときにちょうど私たちを見つけたそうだ。
「すんごいタイミングだったんだね」
「あぁ、俺もまさかここでなまえに会えるとは思っていなかった」
にっこりと笑う姿は記憶の中のまま、変わっていなかった。
サボは、私がミホークさんと出会うよりも前の、旧知の仲だ。
かつて私が住んでいた島を革命軍が助けてくれた。そのときに、革命軍の掲げる思想に共感して、指導者であるドラゴンさんに尊敬の念を抱いた。そのまま私は革命軍に入ることになった。
私の戦闘力は平均的で、何かに秀でているわけじゃない。だけど、「人手は多ければ多い方がいい! 歓迎するぞ!」そう言ってもらえたのは嬉しかった。非戦闘員として出来ることをこなす日々。私と同じような人はたくさんいて、皆、志を高く持っていた。やり甲斐のある毎日だったのを今でもよく覚えている。
……そして、時折――、前線で動いているサボを含めた他のみんなが負傷して返ってくる姿を目にする度に、やるせない気持ちになっていたのも鮮明に覚えている。私に力さえあれば、もっと……もっと……それは長い間、私の中で燻っていた。
ある日のこと――活動の最中で発見された珍しい悪魔の実を目にする機会があった。悪魔の実は本物を目にするだけでも貴重だ。……そして、それだけじゃなく、その実を口にする機会が巡って来た。
『その悪魔の実はどんな能力を持っているかは分からない。食べた者がどうなるかも分からない――これは人生をかけた賭けになる。それでも挑戦したい奴はいるか』
その場にいた誰しもが足踏みをした。もちろん、私も。……でも。最も早く、震える一足を前に踏み出したのは他ならぬ私だった。待ちわびていた、みんなの力になれる機会。こんなことは、後にも先にも、もうこの先一生、巡ってこないかもしれない。それなら、今、目の前にある確かなものを掴み取りたい。その一心だった。
私は皆の前で片手を上げた。
もしも変な能力だったとしても、駆け出し、新人の私なら、後腐れもないと思います――周囲を説得するのは簡単だった。だって、それは事実だったから。
その時、サボは止めてくれたけれど、私は聞く耳を持たなかった。ドラゴンさんが、反対するサボを説得してくれたおかげで、その場は上手く収まった。燻っていた青臭い正義心に火がついて燃え出してしまったら、それを止めることは容易ではないと彼等は身を持って知っていたのだ。
そして、私は実を食べた。
結果はお察しの通り――悪魔の実を食べた後、私は能力に酷く苦しめられた。
何か特別な力を使える訳でもなく、ただただ身体が疼いて、弱っていく。何か恐ろしい未知の病気に感染したように、私は狂っていった。ちょうど、赤髪海賊団に預けられたときのように、私はひたすら相手を欲した。でも、その時は悪魔の実が何かが曖昧だったこともあり、何を欲しているのか、分からなかった。できることは隔離する、ただそれだけだった。
その後、わりと早い段階で実のチカラが判明した。それが分かったのは、偶然だった。
隔離部屋に様子を見に来てくれたサボを、私は押し倒したのだ。ちょうどその時一緒に来ていたコアラが止めてくれて、大事には至らなかったけれど、その時の私の行動を見たサボが、悪魔の実の図鑑を片っ端から調べて実を探し出してくれたらしい……というのも、あの時の記憶はすっぽりと抜けてしまっていて、正直、全然覚えていない。……大変申し訳ないことに。
実のチカラがはっきりと分かった後も、チカラのせいで仲間の中で不満が溜まっていくのが分かった。そりゃそうだ。この力は異質なのだから。このまま革命軍の中に居続けると、下手したら内部から分裂が始まる可能性があった。危険な能力である、そう判断されるのに長い時間はかからなかった。
ある日、王下七武海をしているミホークさんに白羽の矢が立った。なんでも、世話人を探しているということ。そして、能力に関しても了承してくれるということ。何より、島で偶然に出くわした私のことを目に留めて、成り行きながらも、彼は私の初めてをいとも簡単に奪ったのである。
それに加えて、その責任を取るとまで言ってくれた。……っていうのに。今思い返しても「責任取る」って言ったんだから、途中で放り出さないで欲しいと腹が立ってきた。まぁ……もしかしたら、ミホークさんはそんな昔のことはもう忘れたのかもしれないけどさ。…………次会ったら絶対問い詰めてやる。
「……私も。まさかサボとまた会えるなんて……、もう二度と会うことはないって思ってた」
実際、ミホークさんが私を赤髪海賊団に落としていかなければ、こんな風に外へ出ることはなかっただろう。あのまま一生をクライガナ島で過ごしていたと思うし、それに対して何の不満も、疑問も持たなかったと思う。
「彼奴はどうした?」
「あーミホークさん?」
「あぁ。パートナーになったはずだろう?」
少しだけ気まずそうに、視線を彷徨わせながらそんなことを言ったサボがなんだか可愛く見えてきた。
「そうなんだけど、ちょっと事情があって。離れているの」
「……そうか。だいじょう……」
そこまで言いかけて、最後まで言い終えることなく、サボが口を閉ざす。ぱちぱちと瞬いて見てくるので、私も瞬いて見返した。
「ん、どうしたの?」
「大丈夫か、って言おうとしたけど、なんだか……見違えたな、なまえ」
「え、そう……?」
「あぁ」
サボが言うには、以前の私は大人しい性格で、こんなに堂々と話をするタイプではなかったらしい。実感はないけど、主がいろいろと変わったので、その影響で考え方はかなり引っ張られたんだと思う。海賊は楽観視する人が多い。良くも悪くも、私もその影響を受けたのだろう。
「変、かな……?」
なんだか急に照れくさくなってきた。サボは昔の私を知っている人だ。今とは違う、うじうじした私を知っている人はあまりいない。私からしたら恥ずかしい過去だから。
そんな私が、今みたいに生きていて、どんな風に思われるんだろうか――恐る恐る、サボの両眼を見つめた。
「か…わいい、と思う……けど」
「…………へ?」

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