目が覚めたら船の上だった。右を向けば海兵。左を向けば海兵。
「ねぇ…………まだ機嫌悪いのー?」
後ろには大将青雉。
「いえ……」
船縁に腕を置いて俯く。欄干、真下にあるうねる白波を見つめながら、グッと唇を引き結んだ。
レイさんにきちんとお礼を言えなかった。それが心残りだった。疲れて眠ってしまうなんて……残念すぎる。あんなに良くしてもらったのに…………ごめんなさい、レイさん。
「そんなに好きだった?」
「…………?」
顔を上げる。こつん、隣に並んだ背の高い男を見上げた。
「誰のことですか?」
青雉がきょとんとした顔でこちらを見ていた。
「あらららら~。違ったかー。俺はてっきりあのじいさんに心を奪われちゃったのかと」
「え、あ……いえ。最後にお礼を言い損なってしまったので……」
「あー、なるほどね」
彼は頷くと、一拍の間を置く。頭上の晴天を眩しそうに見上げた後に笑う。そして、懐から一通の封筒を取り出した。
「これは……?」
「じいさんからのラブレター」
ハッとした。苦笑する青雉と目を合わせる。『冥王の先見の明は健在か』彼もそう思っているに違いない。ほんと、レイさんには恐れ入る。真っ白な封筒をひっくり返すと、そこにはSilvers Rayleighとあって、少し目頭が熱くなった。腰に付けていたナイフを取り出す。刃先でスゥ――――、丁寧に封を切って、手紙を取り出した。
愛しいなまえへ
別れは苦手だ。
だが、別れこそ長引かせてはいけない。
これは長年の経験から覚えたことだ。
最後くらい言葉にしなくてはな。
楽しい日々をありがとう。
そして、私と君はもう会うことはない。私のことは忘れなさい。
この先、君が幸せになることを祈っているよ。
――Ray
「ハハッ」
笑ったのは、私も楽しかったから。純粋に、彼との日々は楽しくって、幸せだった。
「私の方こそ、ありがとう……」
「マメなじいさんだねぇ……」
無遠慮に、私の手紙を覗き込んできた青雉が言う。……うん、そうだね。レイさんはとてもマメな人だった。
――――レイさん。貴方は「忘れなさい」って言うけど……たぶん私は……貴方のことを忘れないと思う。貴方と過ごした日々で得た経験は楽しさだけじゃなかった。良い思い出も、良い経験も、そのすべてが大切だ。そんな日々を忘れるなんて、勿体ないでしょう? だから、ごめんね。それだけは聞けないや。
君は頑固だが、私はそんな君が好きだよ――耳に残る言葉とレイさんの笑顔が鮮明に浮かんで、私はまた笑った。
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:
今までずっと海賊と共に過ごしてきたせいか、海軍の船は居心地が悪かった。
統率を取るためなのか規律に従って彼等は働いている。海賊はみんな各々が役割をこなしているという感じだった。最終的に上手くいけばいい。そんな感じだ。海兵は過程も大切らしい。
客人として乗せて頂いているはずなんだけど、護衛のためか、監視のためか……はぁ――私の部屋の前には常に二人の海兵が立っていた。今までと大違い。部屋から出るのもままならない…………なんだか息苦しい。
「暇そうだね」
急に開いた扉を見つめる。ノックして欲しいの言葉は彼には届かないらしい。はぁ……もう、諦めた。
「えぇ、まぁ」
話相手はこの海軍大将のクザンさんだけ。今は、「初めまして」をしてから数日たって、ようやく青雉からクザンさんと呼ぶようになったところだ。
以前の私なら「主」としてしか男の人を見ていなかったけど、レイさんの訓練のおかげでそれはなくなった。より、悪魔の実のチカラをコントロールできるようになった……らしい。自覚していなかったから知らなかったけど、レイさんと会ったばかりの時は、甘い香りがダダ漏れだったらしい。レイさんですら、当てられたって言っていた。…………何、甘い香りって。まったく身に覚えがないのが恐ろしい……。今はそれもなくなっていて、誰かれ構わずに絡まれることはなくなった。それでこんなにストレスフリーになれるとは……! ほんと、まじで、レイさん様々。
あれ程縋っていた男連中に縋る必要がなくなった。途端に、魅力を感じなくなった。有り余る時間の中、自分を見つめ直して思ったのは、今までの行動は私の気持ちじゃなかったんだってことだ。悪魔の実のチカラに操られていただけだった。…………その事実にほっとした。私、おかしくなかった。
「クザンさんはレイさんに言われて私を迎えに来たんですよね?」
「ん? まぁ……そうかな」
レイさんはシャンクスに紹介されて、シャンクスはミホークさんに言われて。そこの繋がりは何となく分かっている。……けど、海軍がすんなり動いてくれたのは意外だ。クザンさんの濁し具合も気になる。
「違うので?」
「んー。まぁ……別に箝口令が敷かれているわけでもないし……いいかァ」
そう言ってクザンさんは向かい合うソファに座る。
「悪魔の実の中には、監視されているものがいくつかある。なまえちゃんが食べた実はその中の一つなんだよ」
「……へ?」
「つまりね、君は監視対象の実を食べた人で、俺たちの監視対象ってわけ」
なっ……! なんてこったァ……!!!!
レイさんはそれを知っていたのだろうか。……いや、他のみんな、ミホークさんはこのことを知っているのだろうか!?
「監視対象の実を食べた人が現れたらしいけど、どうする? って話になったときに、ちょーど、俺に話が来たからさ。保護するって話になったんだよね」
「……保護、ですか?」
「ん、そう、保護」
「…………それって、どのくらいの人が知っているんですか?」
「どうだろう……基本は知らないと思うよ」
「あの……私、本部でミホークさんに会うことになっているんですけど」
「あ~鷹の目か。そういや、彼奴、ずっと本部にいるなァ……と思っていたけど。君を待っていたのか」
「会えますか?」
「会うのは別にいいよ」
会うのは……ね。
「じゃあ一緒に出て行くっていうのは……」
「あーそれは、駄目ね」
ふ――と、笑ったクザンさんの目は全然笑っていなかった。

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