その日の夜に開かれたのは歓迎会という体裁の宴。ミホークさんからあそこの奴らは何かと理由をつけて大宴会をしているとは聞いていたけれど、まさかこんなに軽くやってしまうとは。突然の来訪にも寛大過ぎてびっくりしてしまう。一通り挨拶周りを済ませる。
どうやらこの船に乗っている女は私だけのようで、挨拶にいく人みんながみんな、そういう目でこちらを見てくるのをひしひしと感じた。うん、まぁ分かっていたよ。狼の群に放り込まれた感じ。ふふふ、と笑みを漏らしながら、甲板の上でお酒を喉に流し込む。しばらくは退屈しなさそうだなぁ。
「よぉ、挨拶は済んだか?」
「……どうも」
気持ちよく酒が回っているのか、気分良く話しかけてきた副船長が隣に体を据えた。カチャン、と音が鳴り煙が上る。ふぅと気持ちよく吐き出す姿に目を向けた。
「ん、どうした?」
「船長は?」
「さぁな……そう言えば、おまえの名は?」
「え、名前ですか?」
「あぁ」
「……なまえです」
「そうか、名で呼んだらいいか?」
「……まぁ、お好きにどうぞ」
ふわりと夜風が2人の間を通り過ぎる。黙り込むと訪れた沈黙。それを互いに特に気にすることもなく、副船長はただただ煙を吐き出し、私はと言えば、なんとなくその様子を見ているだけだった。こんだけ視線を送っているのに見向きもしない副船長はとても落ち着いていて、次にどういう行動をするのだろうかと、少し気になった。
「お前の姿が見えなくなった途端、あいつら、誰が手を出すかという話でもちきりだ」
「ふふふ、やっぱり」
「……やっぱり?」
「みんな隠すことなくそういう目で見てきていたもので」
「そうか」
「えぇ」
「お前はいいのか?」
「いいって、……私は別に、って感じですね。今は主もいなくなりましたし、次に相手してくれる人を主にしようかと思っている感じです」
「……主?」
「ミホークさん、どっかいっちゃいましたからね。たぶん、交代なんだと思うんです」
背の高い副船長を見上げて笑みをこぼす。訳が分からないと眉間に皺を寄せる彼にそれ以上の説明をすることなく言った。
「……ところで、船長は?」
「……その主にお頭を、と考えているのか?」
「妥当じゃないですか?」
「……まぁな」
にんまりと口の端を上げ、目を細めて見せた。別に誘ったつもりはなかったけれど、何かが副船長のスイッチを押したらしい。視線が絡み合った途端、彼は固唾を吞んでいた。私は首を傾げて微笑んで返した。もしかしたら私の風姿が魅力的に見えているのかもしれない、なんて思いながら。
副船長の片手が肩に触れる。自然な流れで寄る体躯はとても逞しかった。触れた胸板は厚く、まるで壁のようだ。主とはまた違う筋骨だ。彼の双眸が柔らかくカーブする。あぁ、素敵な笑顔だ。優しい眼差しに溶けてしまいそうになる。きっと副船長は女性の扱いに長けているのだろう。
細められた瞳が近づいて来る。柔らかな誘導のおかげで大きな影に体を震わせることはなく、優しく撫で上げられた背中から背骨を伝って恥骨まで刺激が届き、触れた唇が後押しした。むずりと動く――刹那、全身を駆け巡ったのは快感の中でもまた別の感覚だった。
思わず両肩を自分の手で抱いた。
「ッ、」
「……どうした?」
「ミホークさん、もしかしてこれを見越していたのかもしれません……」
まるで膜に覆われたような、快楽。はっきりとは満たされない快感。じれったくもどかしい感覚が脳を麻痺させる。それに耐え、懐から電伝虫を取り出した。息がかかるほど近くにいる彼の気配に再び沸き上がってくる支配にも似た強制的快楽とそれを素直に受け止められない現実に泣きそうになる。
じんわりと目に浮かんだ涙をそのままに受話器をゆっくりと上げた。
ブルブルブル――
ブルブルブル――
ブルブルブル――
「……」
「もっと早く出て下さい。あと、あなたの趣向の説明をお願いします」
受話器の向こうではクククッと心底楽しそうに喉を鳴らしているミホークさんがいた。
「相変わらず早いな、相手は誰だ?」
「……誰だっていいです。早く説明を」
「……どうした? もうそんなになっているのか、お前は相変わらずだな」
「ッ、ミホークさん!!」
たまらなくなって声を上げると、電話の後ろから女の喘ぎ声が聞こえた。
「……ちょっと、」
「……あぁ、聞こえたか。悪いな。こっちはこっちで忙しい」
「っ、あんたって人は!」
「そんなにやりたいのか、」
「あんたがそんな体にしたんでしょうが」
「触れて欲しいか、俺に……」
「ん、」
「クククッ、だがな、無理だ」
「ッ、…………だったら、だったら、主を変えて」
「ほぉ、そこまで言うか」
「ん、お願い……このままなんて、無理」
「……しばらくそのままでいろ」
ガチャン――
プ――、プ――、プ――と鳴る音が無慈悲に襲いかかってくる。横でその会話を聞いていた副船長がゆるりと体に腕を回し抱きしめた。
「や、」
「そんな声でそういうのか」
「ん、やっ」
再び合わせられた唇。誘うような動きに自然と体に力が入る。もっと、もっと、欲しい。その様子に小さく笑みを漏らした副船長が言った。
「さっきの電話は?」
「主が変わっていなかったから……」
「主が変わっていないとどうなる?」
「……私が、」
「私が?」
「ん、や……言いたく、ない」
フッと笑い声がした。ならいい、その声と共に抱え上げられた私は小さな部屋へと連れていかれた。

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