06:召使いのお風呂

その後、風呂を貸してもらうことになった。もちろん、この船に女は私しかいない。そのため、通常は他の船員の後か、それよりも早くに入ることになる。しかしながら、今夜は宴だ。宴の日は翌日の朝に入るのがお決まりらしい。まぁ、酔いが回っていて危ないからね。つまり、今夜の風呂場は貸し切り状態というわけだ。

「タオルとかは俺のでいいだろ」
「どうも」

「大丈夫か?」
「んん、ちょっとだるいかなってぐらいなので大丈夫です」

そうは言ってみたけれど、すっかり脱力しきってしまった体では2本足で真っ直ぐ立つことも難しかった。壁に手を添え、体重を寄りかからせてようやく歩ける状態。

「そんなんじゃ風呂場に着くまでに夜が明ける」

何から何まで申し訳ない。小言を言いつつも副船長は私の体を抱え上げ、横抱きにして運んでくれた。ゆらゆらと揺れる振動が心地いい。気を抜くとどっぷりと夢の世界に入ってしまいそうだった。

ガラガラガラ――

「着いたぞ」
「ん、あー、はいー……」

ゆっくりと下ろしてもらった。

ペタン――

「おい、何で座るんだよ。立って脱衣所に行け」
「……ん~、」

ペタン、ペタン、ペタン――

タオルを背負い、這うようにして副船長に言われた脱衣所を目指す。瞼はもうトロンとしていて自分でもシャンと開けないし、先ほどまでの行為でなんだか体が変で、力が入らなかった。

「……、一人で大丈夫なのか?」
「……頑張れば、たぶん……でも、責任とってもらえるならそれはそれで、助かります」

こくり、こくり。一つ一つ丁寧にゆっくりと言葉を返していく。そうでもしないと頭が回らない。

「……分かったよ」

スルスル、と服がすれる音が聞こえ、ピシャリと風呂場の扉が閉められる。こちらに向かって歩いてくる副船長を座ったまま仰ぎ見れば、「責任取ってやるよ」とやや困ったような笑顔が向けられた。

「ん~、助かります」

ほらよ、と脇の下に太い腕が差し込まれ軽々と体が持ち上げられる。

「うわ~力持ち~」

「おら、服脱げ」
「は~い」

ぱち、ぱちとシャツのボタンを外していく。時折ふらりと体がよろけると「しっかり立ってろ」と副船長が直してくれた。おかげで服を脱ぎきることができ、ようやく風呂場へと入ることができる。

「うわ~思っていたよりも広くて綺麗ですね」
「汚い風呂にはいるのはごめんだからな」

壁伝いにゆっくりと歩きひやりとするタイルの上に足を置いた。

「……冷たい」
「いいから、入れ」
「……冷たい」

涙目になりながら冷たいです、進みたくないですと後ろに立つ副船長を振り返る。あ”~もう! と言う叫び声の後、バサッと音が鳴った。それに続いてカチャカチャという音まで聞こえてきて、不審に思って湯気で見えにくいなか目を凝らしてみたら、そこには肌色がぼんやりと浮かんでいる。

「副船長?」
「俺も入る。ここまで来たらそうした方が早ぇだろ」

……うん、それは確かにそうかもしれない。移動するにもふらふらするし、この状態なら髪を洗うだけでも相当時間がかかりそう。

「……洗ってくれるの?」
「……、すべるんだからしっかり捕まってろ」

さすがに風呂場で抱え上げたら危ないからということなので、肩を貸してもらって歩いているんだけど……、なんせ互いに裸なものだから。私はまだバスタオル巻いてるけどさ、副船長は隠す気すらないし。いやまぁ、男らしいけど。

洗い場に着いたら椅子に座るように誘導された。用意された椅子は思ったよりもひやりとしていて、お尻が着くと同時に体が飛び跳ねてしまう。隣から息を殺して笑う音がした。こんなの不可抗力だって。何だか納得がいかない。不満を隠すことなく横を見たら、「こっちだ」と強引に腕が引かれた。

「……えっと?」

今度は冷たくない。ご丁寧に暖めたタオルを敷いてくれたらしい。少しホッとした――のも束の間。そこは副船長が私のためにと用意した特等席だった。副船長の腕、いや足の間……そう股の間で、今は背中にぴったりと厚い胸板がくっついている。

「頭洗うから目、閉じてろ」

あ、あぁそういうことか。なんて思った私は男という生き物についての認識がどうやらまだまだ足りなかったらしい。目を閉じて頭を洗って貰い、さて後は自分でというときだ。あ、しまったと気がついたときにはもうすでに遅かった。

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