テスト用紙でなにをやっている

「突然ですがテストをします!」
「はぁ? テストぉ?」

なんていいリアクション。ダイニングテーブルで昼食を終えた後、みんなが解散する前に呼び止めた。青年は一体どうなってそういうことになったんだと額に皺を寄せている。その隣のペローナちゃんはなんだなんだと素直な反応。向かいの椅子に座るミホークはまたなまえが何か面倒なことを言っていると思っているのだろう。素知らぬ顔で新聞に目を通している。

「テストって何のだ?」
「さすがペローナちゃん! いい質問をありがとう。おかげで話がちゃっちゃと進むよ」

ペローナちゃんはあまり表には出さないが、楽しそうだなと口元が緩んでいた。さすが女の子。こういうイベントごとは大好きだよね。

「題して、私のことをどれぐらい理解しているのか見せてもらおうではないか! ティストゥォオオオ~!!」

ドンドン、パフパッフッ

「あ、あれ? ラッパまで用意したのにこの反応。どういうこっちゃ!」
「いや、お前がそれを言うか?」

呆れ顔の男二人は置いておく。

「それで、問題はどこにあるんだよ!」

俄然やる気のペローナちゃんに頬を緩ましつつ、ちょっと待ってね~と何処からともなくテスト用紙を取り出し、3人に配る。ミホークのジトリとした目も無視無視。はいと紙を前に差し出して、受け取ってくれるまで粘る。しばらくすると観念したようにため息を吐いたミホークが新聞を閉じて受け取ってくれた。ニシシシッと笑えば、残りの2人も笑った。相変わらず鷹の目はなまえに弱いなと2人が口々に言う。

「はい、お手元に行き渡りました紙には簡単な私のプロフィ―ルを括弧抜きにしてあります。それとちょっとした問題も載せてます」
「なんだこれは?」

身長、体重、ヒップにバスト……こんなの知ってたら逆に怖いだろう……と言う青年にそんなことないよ? 私はもうみんなの知ってるしと笑い返せば、青年の顔が青くなった。いつの間に調べやがった!? と怒鳴り散らす青年を華麗に無視して、手を上げたペローナちゃんを当てる。

「はいはーい!」
「はい、ペローナちゃん!」
「これ景品とかあるの~?」
「え、景品……?」

う~ん、それは考えていなかったなと頭を抱える。元々暇すぎて死にそうな時に思いついたどうでもいい感じのものだったからなぁと思いつつも考える。閃いた景品は物じゃないからみんないらないかもなぁと思うけれど、一応言ってみることにした。

「じゃあ、私の一日独占券を贈呈します。一日だけ私を独り占めできます」

どう? と冗談っぽく笑いながら言えば、思いの外三人の顔が真剣になる。あれ? それはないでしょ―とか、そういうつっこみを期待していたんだけど……みなさん、なんか本気? 開始の合図も出していないのに、すでに3人とも用紙を穴が開くんじゃかというぐらい凝視している。サラサラサラ。軽快なペンの走る音。スラスラ書けているじゃんとカップを片手に顔を上げれば、それは予想外の人。うっそ~!! あのミホークが一番スラスラ書いているんだけど……それにしても文字を書いている姿なんて初めて見た。なんか……素敵。これで眼鏡でもかけてたらかなりいい、と思いながらその横顔にジッと見入っていた。

コトンッ

鉛筆が机に横倒しになる音で我に返る。ミホークは鉛筆の下から紙を抜き取るとこちらへスッと差し出した。今日は素直だなと思いつつ、それを受け取る。ズラズラズラ――括弧抜きはすべて埋められていて軽く引いた。あ、うん……とだけ返しすぐに裏返す。残りの2人のものを受け取ってから目を通すことにしよう。

「ちょっと2人ともそろそろ頂戴よ」
「え~だって制限時間とかねぇんだろ?」

しまった。時間決めるの忘れていた。

「分かったじゃあ早いもの勝ちにしよう!」

そう言って、一人悠々とコーヒーを口に運ぶミホークに目を向けた後、先ほど彼が記入した問題用紙へ目を向ける。そういえば私もコーヒー入れていたんだっけと思い、カップを口に運んだところで吹き出した。

「ブッ!!」
「んだよ、汚ねぇな~」

すぐに立ち上がり布巾を準備するあたり、私の教育が行き届いているなと自分で自分に感心する。青年はだいぶ気が回る男になってきていた。

「ご、ごめん、ありがと」

手渡された布巾で拭きこぼしたコーヒーをふき取っていく。あーあ、用紙にも少しかかっちゃった。軽く用紙の上を布巾で擦れば、茶色いシミが薄く広がって残った。まーしょうがないか……

「って、そうじゃない!」
「さっきからなんだよ、なまえさん」
「いや、これ……」

ミホークの用紙をひらひら……いや、ビラビラ……とにかくすごい勢いで振る。紙がグシャグシャとなる音が大きく響けば、うるさいぞと問題の人がこちらに顔を向けた。

「いや、だってこれ……」

だからなんだとよ用紙をのぞき込んでくる2人にもう結果はついたからいいかと紙を差し出す。のぞき込んだ2人が一通り目を通した後、こちらに顔を向けた。

「まさか」
「うん、全問正解」

あはは……予想外の結果に苦笑い。でもどうして……そう言おうと体の向きを変えた瞬間包み込まれるように抱きしめられた。わっと声が漏れる。突然のことでふらりと足下がおぼつかなくなると腰に手が回ってきて優しく支えられた。ふわりと香る大好きな人の香り。目に映る服にパチパチと瞬き、首を傾げながら顔を上げた。

「ミホーク?」
「俺の勝ちだ。景品は俺がもらう」

今思えば夫が妻を景品として一日独占するってどうなんだろうとそんなことが頭を巡った。残りの2人はあーもう、と呆れていた。そんなことより、この状況は恥ずかしい。抱きしめられるなんて……

「あの、ミホーク。離して?」

いつもならそう言えば素直に解放してくれる。そして素っ気ない態度でどこかへ姿を消す。だけど、今日は違っていた。

「お前等今日は島から出ていろ」
「はっ!?」

私の言葉を華麗にスルーした彼は2人にとんでもないことを言い出した。ポイッと放りなげられたものが曲線を描き、青年の腕の中へ収まった。

「は、これは?」
「先日お前の刀の手入れの話をしただろう。自分で行って来い。ゴースト娘。お前はそのひどく方向音痴な奴をどうにかしておけ」

ポカン。渡された必要以上の札束とミホークと私と。何度も繰り返し見る2人を私も何度も見た。最後にミホークに視線を戻せば、細くなる瞳。その素敵な顔に頬が勝手に染まる。この人本当に独り占めするつもりだ。

「え、と。船は?」

ペローナちゃんにしては珍しく小さな声。そりゃそうだ。鷹の目がこんなにも何かに執着することがあるだなんて、誰が思おうか。実際、私もびっくりしている。

「棺船の隣に小舟が何隻かある。それを使え」

分かった、行くぞロロノア、そう言って早々に立ち去るペローナちゃんに心の底から感謝する。今尚私の体を抱き締め続けるミホークはいつ襲いかかってくるか分かったものじゃない。できれば2人の前でとかは避けたかった。お、おいっとペローナちゃんの後ろを追いかけていく青年がちらりとこちらを見る。ごめん、という気持ちを込めて片手を拝むように上げれば苦笑された。

ギィィィィ――バタンッ

蝶番が錆かかっているせいかそんな音を出して扉が閉まる。2人だけの空間。今この城には私とミホークだけ。しばらく前、まだペローナちゃんと青年が来る前はこれが当たり前だった。静まりかえった部屋に布の擦れた音がひどく大きく聞こえた。後ろから抱き締められていた私は体を回される。目に入るのは彼の腹の辺りでその身長差のせいで大きく顔を反らさなければ彼の顔は見えなかった。

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