あなたはなんて予測不能な人なの

そのまま強く引き寄せられて、わっという声と共にギュッと腕の中へ誘導される。すっぽりと体全体を包み込められた。少しひんやりとしていた部屋の空気は私の体を冷やしてしまっていたようだ、今は彼の体温がとても心地よくて、うっとりとしてしまう。

「どうしたの、ミホーク?」

私が動揺するのは、普段2人だけでいた時にこんなベッタリとくっつくようなこと彼が一度もしたことがなかったためだった。気のあるときは何をそんなに急いでいるのか、あっという間に心は持っていかれ、気が付けば行為が始まっている。私にしてみれば、それはもう一瞬のできごとだった。

「たまにはいいだろう」

頬に伸びてくる手が優しく撫でる。は、恥ずかしい。

「するなら、さっさと……」
「…………」

急に無言になった彼。温もりが私から離れていく。小首を傾げると彼がその大きな体の腰を折る。驚いて目を瞬かせていれば、すぐ前に彼の顔が降りてきた。至近距離。こんなに近く、こんなにゆっくりと、こんなにまじまじと。見つめるのも、見つめられるのも初めてのことで。あっと言う間に私の顔は真っ赤に染まる。恥ずかしいと顔を両手で覆えば、彼の手によってそれはすぐに払われる。クスリ、そう笑う彼の笑顔を初めて見た。

ドキドキと高鳴っていく心臓。触れそうで触れない唇の距離。ひょっとして……、今私はじらされている……の? 気が付けば、早く早くとその唇を見つめていて、ハッと我に返り、視線を上げれば意地悪く笑う彼。口元がつり上がり、あの金色の瞳はどこか楽しそうで、笑みを漏らす口元から白い歯が見えれば、ドクンッとより強く打ちつけられる。目の前の彼は少年のように無邪気に笑っていた。そんな……そんな顔するなんて、反則。もう、無理。

「ミホーク、好き。大好き」

彼に触れたくて仕方がなかった。勢いよくその首に抱きつく。フラリと揺れた彼の体はすぐに立て直され、ぎゅうっと強く抱き締められた。背中に添えられた手は規則正しく動き、あやすように撫でてくれる。耳元でクスリと笑う彼の吐息に悔しいがな、嬉しさがこみ上げた。

夫婦になって1年。変わらずあなたがいることが私の幸せだった。こうやって、触れ合う必要性なんて感じていなかった。だって、あなたが私を愛してくれていることは十分知っていたし、私があなたを愛していることも十分伝わっていたと思ったから。でも、そうじゃないんだね。

「なまえ、こうやりたかったのだろう?」
「え?」

抱き締めていた手の力を緩めれば、彼が顔を引いて、私と視線を絡めた。

「素っ気ない態度をする癖、いつもかまって欲しそうな目で俺を見る」
「わ、私……そんなことしてたの?」
「加えて無自覚ときたものだ」

全く、困った女だよと苦笑する彼を呆気に取られながら見る。

「だから?」

片眉を上げる彼に続けて言う。

「だから、2人きりに?」
「そうでもしない限り、甘えてくれそうになかったのでな。いい機会だと思った」

彼にはほんと頭が上がらない。あまりの嬉しさで固まる私の頭を大きな手が包み込む。

「たまには甘えろ」
「……む「甘えろ」」
「うん」

なんだかおかしくて笑ってしまった。

「あはは」
「なぜ笑う」
「だって、なんかもう……」

幸せすぎる。目に溜まった涙を手で拭う。どうした、嫌だったのか? と額に皺を寄せる彼。私の本当の心を感じ取ったあなたが今更何言っているんだろうと思いながら苦笑する。

「ううん。ミホーク……私、ミホークと結婚してよかった」

そう心からの声を漏らせば、そうかと彼が笑う。再び抱き締められる。体の下に回って来た手。すぐに体がふわりと浮く。

「こうやって抱くのも久々であろう」
「……うん。だって、2人がいたらさすがにできない」
「好きか?」
「……そりゃ、お姫様抱っこっていうぐらいだからね」

はにかめば、ならばして欲しいときはいつでも言って来いと言われる。え? と心底吃驚して声が漏れた。

「甘えたいときも、かまって欲しいときも、抱き締めてほしいときも、ちゃんと言え。俺はそういうことには鈍い」

分かっていたんだ。まずそこで苦笑してしまった。コクリ、彼に見えるように大きくうなづく。相変わらず頬が熱かった。

「俺が言うことを聞く女はお前だけだ」
「ッ!?」

さっきからこの人はどうしたというのだ。歯の浮くような台詞をこうもポンポンと。なんて気障な人。

「どうした?」

もう、心臓が持たない。真っ赤に染まった顔でキッと睨みつける。私を殺す気かっ!! ふぅと息を吐き出して自分を落ち着かせようとする。

「なまえ」
「いや、あの、ミホーク! ◎△$♪@&*#……!!」

もう最後の方は自分でも何言っているのかよく分からなかった。長いキス。初めは触れるだけだったのに徐々に強く押しつけられるようになり、ペロリとひとなめされる。それは開けろという、いつものサイン。小さく開かれた隙間に生温かいものが進入してくる。遠慮のないそれは私の口内の壁を丁寧に舐めとっていく。

「ん、ふぁっ……」

息が苦しい。頭がぼーっとする。ぎゅっと強く掴んだ彼のシャツ。視界の端に映る彼の目が細くなった。いつの間に寝室まで運ばれていた私は部屋の壁に降ろされた。そのまま壁に追いやられるように深く長いキスは続く。私の息継ぎのために解放された唇。呼吸を整えるためにゆっくりと呼吸を繰り返す。視界は勝手に流れ出た涙で潤んで見えた。頬に伸びてきた手がこちらを見ろと言う。されるがまま向けた視線。

「なまえ、俺もなまえと一緒になれてよかった」
「っ!!」

勢いよく抱きつく。ハハハッとそんなに先を急ぐなと笑う彼はきっと私の心境を知らない。堪らなく彼が愛おしい。愛しているとはまた違うその言葉の真意。一緒になってよかっただなんて、言ってもらえるなんて思ってもなかった。世界最強の剣士の妻が私でいいのだろうかと何度不安になったことか。

「ミホーク……みほーくっ……」

流れ始めた涙は止まらなかった。異変に気づいた彼が慌てて私の顔をのぞき込む。どうした? という言葉に好き……、大好きと返して、嗚咽を漏らす。

「……だから、ちょっとこのまま、このまま抱き締めていてよ」

まったく、しようのない奴だと笑い飛ばした彼は泣き止むまでぎゅっと優しく抱き締めて、泣き止んでからも私の言葉に耳を傾けてくれた。どうしよう、今までずっと我慢していたから止まらなかった。こんなにあなたのことを愛していただなんて。囁かれ続ける愛の囁きに私はどっぷりハマってしまっていた。

あなたはなんて予測不能な人なの……

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