一抜け、二抜け、三抜け

夕食が終わり、後片づけを済ませる。その後の数時間はダイニングに置かれているソファに座り、のんびり本を読む。隣にはいつもミホークがいた。でも最近は青年の修行に付き合っているせいか、この時間を一緒に過ごすことが少なくなっていた。

数時間すると、修行を終えた2人が帰ってくる。いつものようにボロボロの青年にタオルを投げ、澄ました顔のミホークにはほどほどにしてあげなよと、文句を言う。青年は何も言わずにそのままフラフラと風呂場へ向かった。その後ろ姿にお疲れ様と呟くように言う。彼の仲間はどんな人たちだろうか。こんなに一生懸命に仲間のために強くなろうとしているんだもの。きっと、素敵な人たちに違いない。そう思うと自然と頬が緩んでしまった。

ギシリと軋む音。向かい合うソファ、いつもの定位置にミホークが座る。視線を感じれば、はいはいとわざと声を出してキッチンへ。冷蔵庫から軽く食べられるものを出して、ワインを運んだ。これが私の役目。しっかし……こんな生活でよく太らないものだなぁといつも思う。

「……飲むか?」

いつの間にかミホークを見つめていた私に彼が気を使ってくれたよう。

「いらない。強くないの知ってるでしょ」

ワインの一体どこがいいのか教えてほしい。だいたい、酒なんて頭がグワングワンするだけの苦痛なものでしかなかった。

「……そうだったな」

わざとだな。この男はちゃちゃを入れるのが割と好きなようで。時たまもう面倒だ! と声を上げたくなるくらい、それぐらいうっと惜しく絡んでくることがあった。まぁ、それはそれで……好きですけどね。でもなんかからかわれているみたいでちょっと腹が立つ。むぅっと頬を膨らませて目を向けると、おぉ膨らんだ膨らんだと楽しそうな声。

丁度そのとき、パタパタと廊下を走る音が聞こえてきた。湿気防止のために城の窓、扉は全開にしているためその音はよく聞こえた。

「なまえ~! 今日もやろうぜ~!」
「うん、いいよ」

元気よく部屋に入ってきたペローナちゃんはもう寝間着。いつでも寝られる体制になっていた。各言う私もすでに寝間着。青年の後に入ることになるとかなり待たされるので先に入ることにしているのだった。

「ロロノアは?」

彼女はダイニングを軽く見回してお目当ての人を捜している様子。

「まだ風呂~」
「チッ、んだよあいつ。女子か!!」
「ん、たぶん寝てるんだと思う。ちょっと行って起こしてくるよ」
「私も行く! 鷹の目と二人なんてまっぴらだ」

あはは、相変わらずだな。ちらりとミホークの方を見たらやれやれという顔でワインを口に運んでいた。こっちは慣れた様子。はいはい行くよとペローナちゃんをせかしてお風呂場へ。なんの躊躇も遠慮もなく脱衣所に入り、風呂場の扉を勢いよく開く。

「起きろ~朝だ~!!」

ビックゥッ!! と跳ねる人間は何度見ても面白い。彼がこうして寝過ごす度にやっていて、見慣れているのに。堪えきれなくなってしまった笑みが漏れて浴室の中を満たした。

「っはははは!!」
「っ!?」

反動で顔が湯船の中に浸かってしまい慌てて顔を上げた青年が恥ずかしさを紛らわすように声を上げた。

「て、てめぇら!! 何度言やぁ分かるんだよ!? ノックでいいって言ってるだろうが!!」
「そんなの面白くないじゃない」

ニシシシッと意地悪く笑い、早くしてねと扉を閉める。

「あ、そうだ!!」

言い忘れたことがあったので再び扉を開いたら、立ち上がっていた青年が慌てて反対側を向いた。

「おいぃ!! だからノックしろって「今日はダイニングにミホークがいるから、2階でするからね~」」

バタンッと閉めた扉の向こうでは、いいから俺の話を聞けと青年が叫んでいた。

「起きた?」
「うん、起きた。先始めておく?」
「そうだなー、そうしようか」

アイツも相変わらずだなぁ~とケラケラ笑う声が静かな廊下に響く。ダイニングの前を通り、2階へ行くときに目に入ってきたので、思いついてなんとなく声をかけてみた。

「ねぇ、ミホーク」
「なんだ?」

先ほどと変わらず黙々と口にワインを運ぶ様子はまさに優雅で。スッと細められた目がこちらに向く。

「暇ならトランプでも、どう?」

え~鷹の目も誘うのか? と隣で嫌そうな声を上げるペローナちゃんにたまにはいいじゃない? と笑いかける。まぁたまになら……、そんなペローナちゃんに一度視線を向けたミホークが今度は私に視線を向けた。

ね、いいでしょう? と押しの一言。ミホークは相変わらず私には弱い様子。渋るようなうなり声。手招きをすれば渋々立ち上がり、ワイングラスを机の上へと置いた。

「お酒飲んでもいいけど?」
「いや、やめておこう」

あのミホークがお酒を遠慮した? 疑問に思いつつ一緒に部屋へ向かった。数時間後、ミホークがそう言った理由を理解することになる。

 

「ミホークって、もしかしてトランプが苦手だったり?」
「あははっ!! よっわ~」

指を指して声を上げるペローナちゃんに指を指さないの! と声を上げつつも、私も笑う。ミホークはといえば、なんともいえない顔をしていて。だからお酒は遠慮したのかと納得がいった。

「あァ? ポーカーは強かっただろ?」

思い出したように言った青年の言葉にミホークは目を細める。

「賭け事だったからな」
「何それ、まるでババ抜きが子供の遊びかのような言い方」

気に入らないわと首を振る。私の手札は残り1枚。対するミホークの手札は2枚。2枚のうち、どちらかがババだ。すでに上がっているペローナちゃんと青年は横からあーだ、こーだと口を挟んでくる。

「だー、もう!! う・る・さ・い!」
「いいのか、それで」

2枚のうちの1枚に手をかけるとミホークがいいのかと確認してくる。そうやって何度かやりとりを繰り返した後、もういいやと適当に引いてやった。

「やった! 上~がりっ」

ペアになったトランプを捨て場の一番上に叩きつける。肩を降ろすミホークはこれで3連敗。

「さてさて」
「まだやるのか」
「だってミホークに勝てることなんて滅多にないもん。やるよ!」

ね? と2人に目を向ければ、始まる前は不服そうだった2人も上機嫌でもちろんと返事をしてくれた。

「よし、じゃあ次はジジ抜きね!」
「ジジ抜き? なんだそれは」
「え、そこから説明?」
「俺も知らない」
「んっとね~」

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