はぐれ猫、走る

珍しく興味を引かれていた会議もいざ始まってみればびっくりするぐらいつまらないもので、すっかり興味をなくしてしまう。他にやる事もないし……と元帥の膝の上で丸まっていた。

ガンッ、ガンッ、ガンッ――

聞き覚えのある足音に耳がピンッと立った。いつでも眠れる体勢に入っていたところからスッと顔を上げ、部屋の前を通り過ぎていく足音の持ち主に意識を集中する。

間違いない、あの人だ。

急に体を起こしたせいか、元帥の声が一瞬途切れたけれど、それもすぐに何事もなかったかのように再開し、発言は続いた。膝の上から飛び降り、扉の前へ向かう。なんだなんだ? と皆の視線がこちらへ向いたのが分かった。そんなことを気にすることもなく、高くしなやかにジャンプして、ドアノブに前足をかける。器用にノブを下に下げて、体を揺らした。カチャァン――音が鳴った。お、開いた? どよめく人たちを一別、元帥に向かって一礼する。そうして部屋を後にした。

ガンッ、ガンッ、ガンッ――

相変わらず大きな足音。タンッタンッタンッ、と走り寄り、見たことのある大きな後ろ姿のその人に近づいていく。軽く小走りになりながら、にゃ~と一声。お久しぶりですと心を込めたつもりだった。

「ん?」とその鳴き声に足を止めたその人がこちらに振り返ってくれる。あ、髪が白くなってる。そう思ったのは心のうちに秘めておくことにした。

「おぉ、猫か?」
「にゃ~、んにゃ~!」

ガープさん、お久しぶりです!

どれどれと両脇を抱えあげられて、ズイッと顔が近づく。その雑な感じとかが懐かしい。近づいた鼻をペロリとひと舐めしたら、ブァッハハハハハッと豪快な笑い声を上げたガープさんがそのまま私を抱いて歩き出した。笑い声も昔のまんま。何にも変わってないね。

きっとガープさんは私のことを覚えていないと思う。けど、確かに私とガープさんは数年前に会っていた。もちろん私は猫の姿だったけど。

ロジャー船長が亡くなったとき私はルージュと共にいた。ルージュのお腹の中には子供がいた。ルージュと船長の子だ。2人にとても可愛がってもらっていた私からすれば、その子は兄弟のようなもので。その誕生を今か今かと待ちわびていた。

ところが、どこからか情報が漏れ、海軍の手が島に忍びよってきた。ルージュはそれにも耐え、なんとか出産することはできたけれど、その後すぐに亡くなった。私が出来るのは唯一残されたこの子を守ることだけだった。

でもどうしたらいいのか分からなくて、往生していた、そんな時に現れたのがガープさんだった。ガープさんはこの子……ルージュがエースと名付けた子を匿ってくれた。それどころか、兄弟を与え、家族を与え。人としての居場所をエースに与えてくれた。それからしばらくはガープさんとエースの後についていき、少し離れたところからエースの成長を見守っていた。

だから知っている。この人はとても人情深く、涙もろく、家族をとても愛している人だと。あとから知った、ロジャー船長とガープさんの約束。ガープさんはその約束をきちんと守ってくれた。

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ガープさんの部屋に連れていかれて、煎餅食え食えとやたら薦められて若干面倒だなと先ほどの再会の感動も薄れつつあった。電伝虫が鳴り、あぁ分かったと返すガープさんを見上げる。

「会議が終わったそうじゃ。わしはセンゴクのところへいく。お前はどうする?」

なら私も元帥のところへ、そう思ってガープさんの肩に飛び乗った。

「うむ、じゃあ行くかの」

優しい微笑みににゃ~と返して頬にすり寄った。

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元帥の部屋に入ると、はぁ~とため息を吐き出す元帥が書類とにらめっこをしていた。コンコンとすでに開いていた扉をノックするガープさん。

「センゴク、会議はどうじゃった?」
「どうもこうも……、ハンコックがさぼって来ようとしない」
「あぁ、あいつは男嫌いじゃからの。そもそもここに来るのが嫌なんじゃろう?」
「それにしても、仮にも王下七武、海……ん? その猫」
「あぁ、わしについて来ての」
「さっきわしのところにも来ておった」

2人の視線が注がれて、なんだか居づらくなって肩から飛び降りる。そのままそこにお座りをして2人を見上げた。

「この猫を見ているとなんだか懐かしい気がしての」
「あぁ、わしもじゃよ、ガープ。ロジャーを思い出した」
「奇遇じゃの、わしもじゃ、センゴク」

ニシシシシッと笑う2人に目を見開く。2人とロジャー船長は宿敵だったはず。なのに2人はロジャー船長のことを思い浮かべてこんなにも楽しそうに笑っている。2人にとってもロジャー船長は特別な人だったのだと思うとなんだか嬉しくなった。

「ロジャーで思い出したが、白髭のところの奴が」
「あぁ、エースか」

「そうじゃ、あやつが捕まった」

え……?

「そうか、あの馬鹿……」

リンッと鈴が鳴った。

「おや?」

2人がそこを見たときにはもう、さきほどまでいた純白の猫はいなくなっていた。

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エースが、エースが捕まった? どうして、どうしよう。エースがいた白髭海賊団、白髭に会いに行かなくては。そうしなくては。そうして、エースを助けてもらわないと!

行く宛もなく廊下を走る。会いに行くって言っても私には船なんてものはないし。まずったな、鷹の目ともう少し行動を共にするべきだった。まさかいるわけはないだろうと思いながらも祈るような気持ちで先ほど会議が開かれていた部屋を覗き込んだ。

窓際、退屈そうに外を見ている奴がいた。

リンッ、リンッ――

駆け寄ってその腹に思い切り飛び乗る。

「……猫だから軽いと思っているのか。しかし、お前はそれなりに重い。自覚しろ」
「……急に飛び乗ったことは謝る。お願いがあるの……」
「……なんだ」

連れていって欲しいところがある、そう言うと息を吐きだした鷹の目が体を起こす。慌てて腹から肩に這い上がった。

「ねぇ、待っていてくれたの?」
「……行くぞ」

廊下を歩き出した鷹の目はそれ以上何も言ってくれなかった。

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戦争が起こるだろう、とセンゴクとガープが重々しい話をしていた部屋からは港がよく見える。ふとガープが港へ視線を向けると、そこには真っ白い猫を肩に乗せた黒い剣士が立っていた。

相反する色がよく目を引いた。

「あれはあいつの猫だったのかの、どう思う、センゴク?」
「……どうじゃろうな。まだ分からんよ」

もしかしたらわしらと同じであの気ままな猫に振り回されているだけかもしれんよとセンゴクが笑った。

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