「白髭か……、そんな簡単に会えるような相手ではないと思うが」
「……そうだね」
簡単に会えるような相手ではないことぐらい、分かっていた。でも、会える自信があった。なぜならロジャー船長から渡されたこれがあったから。
「何かあったときはこいつに頼れ。敵だが、悪い奴じゃねぇ。なんとかしてくれるさ」
ニシシシッと最後の時に渡されたのは白髭のビブルカードだった。なんで船長がこんなものを持っていたのかなんて知らなかったけど、船長が言うなら間違いはない。それは仲間から絶大な信頼を得ていた船長だから、あの人柄を知っていたから、言えることだった。
差し出したビブルカードに対して、鷹の目は深くを追求しなかった。それは? と聞かれてビブルカードと答えただけで会話は終わった。そういうところの配慮には感謝する。
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どうやら、白髭が潜伏している近くの海域に来たようだ。青い空に一匹の青い火の鳥が飛んでいた。おそらく、白髭海賊団一番隊隊長不死鳥のマルコだろう。
「切る……」
「待って! 彼に案内を頼みたいの」
「……奴が素直に話を聞くと本気で思っているのか?」
「思わない。……だから、強行突破する」
「……」
作戦はこうだ。不死鳥に向かって私を投げてもらい、不死鳥の体に取り付いて白髭のところまで連れていってもらう。
「そう上手くいくと思うのか?」
「やるしかないの。それ以外に方法ある?」
「……切ればいいだろう」
「……さぁて、投げてくれる?」
「俺の話を聞け」
「じゃあ私の話も聞いてよね」
シャァアアア――! 軽く毛を逆立てると、はぁと諦めたため息を吐き出す鷹の目。俺は知らないからなと私の首根っこを掴んだ。
「ちょっと、女の子なんだからもっと丁寧に……」
「知るか、お前は猫になったんだろ」
「ちょ、」
ウニャアアアアアアア――――!!!!!
最悪だ。なんの合図もなしに投げやがった、あの鷹野郎!! これだけ奇声を上げたら、さすがの不死鳥も気づいたようで、かなり警戒した様子でこちらを見ていた。このままいけば……あれ、いや……おいおい。
「あれ、飛距離足りなくない?」
ン、ニャアアアアアアア――――!!!
超スピードで落ちていく体。数メートル届かなかった。私泳げないのに。もう死んだと諦めて目を閉じた時だった。塩の香りが強く香る、それほど水面が間近にあるところで見事にキャッチされていた。パチパチ瞬くと水面が揺れた。
「よいよい、なんで猫が空飛んでんだよい?」
鳥の鋭い爪が少し食い込んでいたかった。でもしっかりと足で支えられた体に安堵する。
「はぁ、はぁ……た、助かった……」
「は? お前人間かい?」
「お願い! 白髭のところに連れていって!」
「……は?」
ちゃぷん、しっぽが海水に濡れる。
「ちょ、ちょ! たんま! たんま! 私泳げない、死ぬ死ぬ!!」
「んなこたァ、どうだっていいんだよい。なんでここで親父の名前が出てくるんだァ? そもそもどうやってここを突き止めたァ?」
うわ、この人めちゃくちゃ短気じゃない? もっとクールな人かと思ってた。
「白髭のビブルカードを預かっているの!」
「……」
ブチッと音が聞こえた。え、えっと……血管切れた的な? あははは……
「それ、本当だろうなァ?」
「も、もちろんです。今ちょっと首輪のところに入れているんで出せないんですけど……」
「チッ……分かったよい。連れていってやるよい」
「やっ……「黙ってろ」た~、……はい」
どうしよう。かなり敵視されている。会えるみたいだけど、会った瞬間に殺されてしまうんじゃないだろうか。……そんな気がしてなりません、ロジャー船長!!
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見えてきた船影は巨大なもので、ロジャー船長のところより大きいんじゃないだろうか。私たちのところはどちらかといえば少数精鋭だったし。
偵察終わりの不死鳥が何か変なものを持って戻ってきた、という情報はいっきに船内を駆け回り、何事だと興味を持った船員達に周りを取り囲まれてしまった。今は好奇に満ちた視線だけど……これが敵意に変わった瞬間を考えたら……それだけでゾッとする。ゴロンと乱暴に離されて甲板の上を数回転がった。
イテテッ……
「行くぞい」
声がした方へ顔を上げたら、不死鳥から人型へと戻りつつある不死鳥が目に映った。
「……ファ、ファンキーですね!」
「はァ? 喧嘩売ってんのかァ?」
「……いえ、」
だって、実際見たら結構インパクトがあったから。ついつい。あからさまに虫の居所が悪いという様子の不死鳥の後ろに続いて歩く。
「親父、客だよい」
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ズァアアアアアアッッ――
突風が吹いた。ゾッと殺気が体中をかけ巡った。この一瞬の間に私のすべてが見抜かれたような感覚に陥った。目の前にそびえ立つ巨体に足が竦む。
恐る恐る視線を上げていくと目があった。
グララララララッ!!!
ヒッと毛が逆立つ。とっさに隣に立っていた不死鳥の後ろに身を隠した。なんかもういろいろ規格外で怖い。
「んだよい、用があるんだろ。親父に失礼だ。前へでろい」
グィッと首後ろを捕まれてしまったら抵抗できないのは猫の性か。そのまま持ち上げられて前へ突き出される。
「ロジャーの野郎から聞いていたが、まさか本当に会える日が来るとはなァ」
「……え?」
「お前がなまえか?」
「はい、ロジャー海賊団で副船長補佐をしておりました。白猫のなまえです。白髭海賊団船長、白髭船長。お初にお目にかかります」
「あァ」
スッと細められた目はここではない、どこか遠くを見ていた。もしかしたらロジャー船長のことを思い出しているのかもしれない。……それにしてもいつまで掴んでいるつもりなんだろう。
「そろそろ離して」
「嫌だよい。てめぇが何するか分かったもんじゃねぇ」
「マルコ、離してやれ」
「分かったよい、親父」
渋々という風に下に降ろしてもらった私はブルブルと体を震わせて乱れた毛並みを整える。
「2人で話す。おめぇらは下がっていろ」
「……よい。おまえら、持ち場に戻れぇい!!」
さすが統率の取れている海賊団だなぁと感心する。
「あ……、不死鳥のマルコ!」
「んだよい。俺はおめぇに慣々しく名を呼ばれる覚えはねぇんだがな」
「じゃあ、不死鳥でいいや」
「はァん?」
「お願いがあるの。この首輪を外してくれない? それで……」
「……なんで俺が、」
「マルコ悪いが聞いてやってくれ」
「ちっ、親父の頼みじゃしょうががねぇよい」
どうやら不死鳥は親父に弱いらしい。ふむふむ、と思いながら不死鳥に背を向けて座る。
「やけに頑丈な首輪だな……、誰につけられ、……あぁそれでかい?」
「うん、それで。だから、返して来て下さい」
「へいへい。分かったよい」
パチンッと取り外された首輪。首輪を付けられている期間なんてほんの数週間だったけれど、その解放感ったら素晴らしくて。うれしくてにゃお~んと鳴き声が上がる。
「ほれ、もういいだろい。親父の近くへいけよい」
グィッと首根っこを持ち上げられた私はポーーンと放り投げられた。スタァンと甲板に着地する。顔を上げたところには白髭の顔が合って、真っ直ぐにこちらを見ていた。小さく一礼する。
体の心がボゥッと暖かくなっていく。あぁ、久々な感覚だ。
数年ぶりに、人に、戻る――
ザァアアアン――
風が吹き、先ほどまで白い猫が立っていたところには白いワンピースを纏った少女が立っていた。
「……は、女? ちかも、子供?」
ピキリと血管が鳴る。
「んだと!! こう見えて私は20歳後半だぁ!! そりゃぁ見た目は子供っぽいかもしれねぇがなぁ!!」
「グラララララッ!! その辺にしとけぇ。ロジャーがてめぇの口の悪さを嘆いていた意味がよく分かったァ」
「っ、……」
船長からそんなことまで聞いていたのか。
「マルコ、てめぇは約束を果たしてこい」
「よい、すぐに行ってくる」
「あァ、頼んだァ」
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ヒュ――――
風向きが変わった。先ほどなまえが連れて行かれた方向から青い鳥がこちらに向かって飛んできていた。まさか、と最悪の状況が脳裏に浮かんだ。
「待て待て、殺気をしまえよい。俺はあの猫から頼まれてきたんだよい」
「……なんだ」
不死鳥はこちらを警戒するように上空で旋回した後、あるものを落とした。
「……これは」
「首輪だ。後、伝言だ」
色々とありがとう。もうこれは必要ないからお返しします。さようなら――
「だそうだよい」
「……」
スルリと手の内から抜けていくところはさながら本物の猫のようだな。感慨深くなり、その首輪をぎゅっと握りしめる。
「あの猫、女だったんだな。さっき人型を見て驚いたよい。鷹の目、おめぇはあの猫の飼い主だったのかい?」
「……いいや、どうやら奴にはもう飼い主がいたようだ」
「……だろうなぁ。その飼い主とやらはとっくの昔に死んでしまったようで、その飼い主以外に飼われる気はないそうだァ」
「どんな女だった?」
「はァん? なんだ、てめぇ見たことねぇのかよい。信用されてねぇ証拠だなァ」
クツクツと不死鳥が楽しそうに笑っていた。無言でその様子を見ていたら、数秒後、不死鳥が言葉を続けた。
「純白のワンピースを着た。純白の髪の女。瞳は猫と同じ。金色と薄い青色。肌も真っ白だった」
あの猫がそのまま女になっただけだよい。想像しやすいだろい? そう言うと不死鳥はバサッバサッバサッと羽を羽ばたかせてその場から去っていった。
「なるほど、やはり……」
いい女というわけか――
ゆっくりと目を閉じた鷹の目はさてどうするかと独り呟いたのだった。

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