崩れた城門の先、立派な大きな扉があった。その隣に出入り口用の小さな門があって、そこから入るように誘導される。城内に入って目に映ったのは天井の高い広々としたエントランスだった。
「うわぁ!!」
天井には大きなシャンデリアがついている。見た感じ電気なんかは通っていなさそうなので、昔は蝋燭を立てて灯していたのだろう。人が見ればそんな骨董品……と文句を垂れそうなのだが……
「……素敵」
「なかなかいいだろう」
「……うん」
ミホークさんも私も、こういう骨董品には凝るタイプで似たもの同士だったりする。定住していないので大きな物を買い集めることは出来てないけど、手持ちの小物はこだわりの品の数々だ。当然、ミホークさんもそうである。
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二人で連れ立って城の中を歩いて回る。
城の中は外観から考えていたよりも小綺麗で、家具などもそのまま残っていた。
「綺麗なものだろう?」
「結構整っているね。……ねぇねぇ! あっちは?」
「……あぁ、あっちは、」
最終的には、私がミホークさんを連れ回す形になるくらいに、城内探検を堪能してしまった。
「もういいか?」
一通り回ったところで区切りを付けるようにミホークさんが言った。その横顔が「疲れた」と言っているようで、苦笑いしながら「うん、充分だよ」と返す。それが僥倖だったのだろう。ミホークさんがフッ――と笑う。肩の力を抜きながら両手をぐぐぐっと挙げて軽くストレッチをしつつ、今更なことを思い出した。そうだ、私はまだミホークさんに聞けていないことがあった。
「……ところで、何しにこの島に来たの?」
それは島を訪れた時からずっと胸にあった疑問。ここまで来たのだから、さすがに教えてくれる頃合いでしょう。急かすようにミホークさんを見上げた。
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「住む」
「………………え?」
「二人で住む」
――はい?
「なまえ、今日からここに住むぞ」
呆然とミホークさんを見た。ミホークさんはにっこりと笑って、私を抱き締めた。私はまだ現実を飲み込めていなくて、抱擁を返すことも出来ず、視線が宙を舞ったままだった。
住む? ここに? 私とミホークさんが? 住む=定住する つまり、ここが私とミホークさんの家になるってこと……? なに……それ。何それ。それって、それって――
「嫌か?」
「っ、」
何度も何度も首を振った。
「っ、いや……いやなんか、嫌なんかじゃない!」
「……それは良かった」
「ミホークさん、ほんと?」
「あぁ」
「冗談じゃない?」
「あぁ。今回は冗談ではない」
「本当の本当に?」
あまりに疑り深く聞いてしまったせいか、それとも私の瞳があまりに爛々としていたせいなのか、ミホークさんはくすくすと堪えきれないように笑いを零していた。
「……本当の本当だ」
あぁ、どうしよう。嬉しい。嬉しすぎる。こんなことがあっていいのだろうか……!
歓喜のあまり、ミホークさんに飛び掛かるように抱きついた。いともたやすくそれを受け入れたミホークさんが私の身体を宙に浮かせたまま強く抱き締め返してくれる。嬉しくって堪らなくって、笑顔が溢れてしまう。
「……ありがとう」
彼の耳元で囁くように言った。僅かな頷きが返されて、私は目を閉じる。浮かんで来たのは、いつかに言った言葉。
「ねぇ、やっぱり船のこと気にしていたりする?」
「……ん?」
「こんな小さな船、嫌だ! って言ったこと」
「…………あぁ。まぁ、それもあるな」
「え? もしかして他にも理由があるの?」
小さく首を横に振ったミホークさんはその問いに答えることなく言った。
「なまえ、一緒に住んでくれるか?」
「もちろん!」
ご一緒させていただきます――そう言うと、ミホークさんが優しい眼差しで爽やかに笑った。
「なまえは俺にとっての姫。共に住み、守るのだから、騎士と言ってもよかろう」
「そんな……勿体なきお言葉です。ミホークさん。貴方は……本当に素敵な人です」
私にとって貴方はもうずっと昔から大切な人で、いつだって私のことを守り、時には探してくれた。折れそうな時は傍に居て支えてくれて。それでいて、世界一の大剣豪。強靱であり、優しくあり、大人であり、美しく凜々しい。冗談が大好きで、マイペースで、変なところで常識がなかったりして。……あれ最後の方悪口かも? と首を傾げながらも抱き締めてくれる愛しい人をみる。
「ねぇ……ミホークさん」
「なんだ?」
「恐らくここダンスホールだと思うんですけど……」
広いホールような場所だった。二階には手すり付きの観覧席がついている。部屋の中心には王城の紋章だろうか、綺麗な絵柄が描かれている。
「それがどうした」
「……ミホークさんは、踊れ、ますか?」
私が恐る恐るそう言うと、空気が優しく揺れた。少し上にある彼の顔を下から見上げる。にっこりと優しげに弧を描く口元。綺麗な三日月が彼の気持ちをはっきりと表していた。
私も気付いたら笑っていた。
抱え上げられて連れて行かれたのは部屋の隅。そこにあるのは持ち込まれたのであろう、少し新しめのレコード。どうやら、ミホークさんもそのつもりだったらしい。それがまた嬉しくって笑った。
レコードのスイッチが入る。くるくると円盤が回って、古めかしい音が流れた。あ――聞いたことのある曲だ。曲名は……なんだっけ。どこかの店で流れていて、ミホークさんと一緒に聞いたことのある曲だ。ミホークさんが私の身体を降ろす。ゆっくりと立たされながらも音楽に耳を向けた。題名がどうしても思い出せないのが気になる。
――と、
「…………え?」
目前の光景に目を疑った。
そこには片膝を付いたミホークさんの姿。一度頭を下げた後に、彼はゆっくりと顔を上げる。揺らぐ視線が彼の金色と交わったとき、ミホークさんはそっと流れるような所作で私の手を取り言った。
「私と踊って下さいますか、レディ」
口元を歪ませた挑戦的なミホークさんにゾクリとする。頭を下げてもなおこの気品。気高き鷹はどんな姿をしていても美しく気高いのだと理解した。
場の空気に呑まれたせいか、返事が喉を通っていかない。頬が上気して顔が熱い。唇が震えるのはあまりに彼が格好いいからだ。いろいろと見目麗し過ぎて直視できない。ミホークさんのことを見返すだけで精一杯だった。返事なんてとてもじゃないけどそんな余裕は私には……。
優しくもしっかりと掴まれ右手。それはそのままゆっくりとスローモーションにミホークさんの唇に向かった。とても……とても長く感じられた。手の平に唇が触れた瞬間――全身を流れる血液が沸騰するように熱くなった。
「……ついて来い」
落とされた言葉。
まるで、これから先のことを言っているようにミホークさんは言った。なんとか首を動かして一度だけ頷くと、ミホークさんが満足そうに笑っていた。
手を引かれてホールの真ん中に立つ。曲は中盤に差し掛かっていた。彼が私の腰に手を当てて、互いに目を合わせ頷き合う。ミホークさんの一歩を皮切りに、私たちのダンスはゆっくりと動き出した。
こう見えて、海賊はダンスを踊る人が多い。誰かと踊るダンスは楽しいもので、宴好きの海賊達は余興として、自分たちが楽しむものとして、各々が踊るのだ。私も親父のところにいたときに遊びでいろいろ教えてもらっていた。みんなとこうして踊ったりもした。
その時はただなんとなく雰囲気を楽しんでいた。動きたいように動くのだ。でも、……今は違う。
これが本物の社交ダンスというものなのだろう。優雅にゆったりとしつつも、大股に広いホールを動いていく。海賊のダンスとは全然違う。ミホークさんがリードしてくれるおかげで縺れそうになりながらもなんとかついて行くことができる。優しく引っ張られる度に彼の優しさに触れるのが嬉しくなってきて、ついつい優しさを感じたくてわざとそうすると、金の瞳が物言いたげにこちらを見つめてきた。
それさえも嬉しいのだから、我ながら困った奴だと思う。
苦笑いを見たミホークさんは眉と口端を上げてコミカルな笑顔を浮かべた。仕方のない奴だと思っているに違いない。……でもきっと、ミホークさんもこのやりとりを楽しんでくれているんだろう。凄く楽しそうな顔をしているもの。彼の笑顔を見るだけで幸せな気持ちになる。この時間が永遠に続くように思える。
あぁ、…………そうか。
だからか…………今頃になって私は気付いた。
ミホークさんが私に永久指針を渡したとき、どこかいつもと違っていた。
あれは、きっと照れていたんだ。
永久指針は、永遠に1つの場所を指し続ける指針――――
「……もう、ちゃんと言ってくれないと分かんないよ」
踊るミホークの横顔に笑いかける。
「なまえなら分かってくれると思っていたのだ」
まるで今、私が考えていたことが分かっているかのようにミホークさんは言った。
私たちは繋がっている――
私と貴方が出会ったあの島で初めて話をしたとき、ミホークさんはこう言いました。「……行こう」と。たった一言でした。ミホークさんのことだから、きっと気まぐれに言ったのでしょう?
ミホークさんの気まぐれなその一言で私たちは出会いました。それからぷっつりと途切れてしまうことなくここまで繋がることができたんです。どちらか、一人が望むだけでは為し得ないことなのです。それは奇跡なのか、運命なのか。私には分からないけど、そこから始まった私たちの物語は、これから先も永遠に続くことになります。
もしも私が、「私たちが出会ったのは奇跡だね」と言うとしたら、貴方はきっと「いいや、必然に違いない」と言うでしょうね。それくらいに、二人の関係を自信満々に言ってしまう貴方のことが、私は本当に大好きで大好きで仕方がないんだけど……ねぇ、ミホークさん。
Eagle Eye Ⅱ END.
20150301 End.
20240220 change.
長い間ありがとう!

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