第4話 訓練開始から一年―回想

なまえに射的の才能があることが分かってから数週間、なまえはベンとヤソップから直々に指導を受けていた。

残念ながら、銃の扱いに関しては俺の専門外だ。撃ち方の指導の合間、空いた時間に基礎訓練を絶やすことなく続けるくらいしか手助けはできなかった。何も力になれないよりはましだが、それでも歯がゆさを感じずにはいられない。そんなこちら側の心境とは反して、なまえは楽しげだった。

何かは知らないが、彼女の中で何か明確な目標が出来たのかもしれない。今まではただ何となく続けているように見えていた姿勢。それが突然変わった。彼女の瞳の奥に光るものが宿ったように感じた。

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1年が経った。
赤髪海賊団は島を離れてもういない。

なまえの基礎訓練は終わり、訓練は本格的な実戦に移っていた。

俺の隙をついて、なまえは自らヒヒ達に勝負を挑むようになった。始めは危険だと反対もしたが、これは誰かを傷つけるためじゃない。守るためにやるのだとなまえは言う。明確な信念を持って進む姿を前にして、何も言い返すことが出来なかった。

ただ黙って見守るしかなかった。俺にだって意思はある。なまえに危険なことをさせたくないと思うし、願う。でも、彼女にも意思はある。そのせめぎ合いだった。間を取るしかなかった。決して頷くことはしなかったが、否定もしない。

「ありがとう」

嬉しそうに微笑んだなまえは飽きることなく毎日ヒヒに挑んだ。

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半年後、剣術は目を見張るくらい、上等なものになった。もうヒヒが群れで襲ってきても大丈夫だろう。剣術の訓練も集団戦の立ち回りに入っていた。真剣を使い、いろいろなパターンを想定して何度も剣を交える。受ける、払う、返す、逃げる、打つ。どれをどのように選択するか、それで己の命の在り方が決まる。なまえはいつだって真剣に取り組んでいた。

心根ではいつもなまえには戦って欲しくないと思っていた。だが、真っ直ぐに挑んでくるなまえの姿はいつかの――若かりし頃の自分を見ているようで、悪い気はしなかった。

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進展があった。

いつものようにヒヒに挑むなまえを、遠くから見守っていたときのことだ。なまえが腰に指していた2丁の拳銃、ベンとヤソップから譲り受けたものでヒヒを打っていた。

俺は確か弾はもうないはずだと呟く。打った数を覚え違えてはいないはずだ。

弾丸を受けたヒヒに目をやる。その様子から確かに打たれてはいるようだった。ただ、打たれたはずのヒヒは倒れることなく、立ったままだ。どういうことだ? 静かになまえに目を向ける。続けてもう一発――銃から放たれているのは確かに弾のように見えた。ヒヒは変わらずそこに立って、なまえのことを不思議そうに見ていた。

我に返ったヒヒがなまえに飛び掛かる。攻撃を何度か刀で返し、後ろに飛ぶ。なまえが悔しそうに肩を落としていた。

その背後に近付いていく。数歩足を進めたところでなまえが振り返った。気配の察知は十分出来ているようだ。

「あ、ミホークさん」

俺が姿を現したせいでヒヒ達が逃げるようにその場から去って行った。何をしているという目で見つめると、ミホークさんが来たら訓練できないでしょう? と苦笑が返っていた。少し呆れの入ったなまえの顔も愛らしい。一瞬意識を飛ばしながらも頭を切り替える。

「…………弾はどうした?」
「あ、これね」

そう言うと、なまえは手の平を前に出して軽く拳を作り、両眼を閉じた。彼女の身体を覆う空気の流れが僅かに変わる。いつの間にこんなにも集中出来るようになったのか。なまえは本当に努力を怠らない女だ。感慨深くなりながら待っていると、前に突き出された拳が俺の前でゆっくりと開かれていく。

「これだよ」
「……まさか、なまえが作ったのか?」
「うん、そう」

なまえの手の上には、先ほどまではなかった弾丸があった。

「これを……?」

まず思ったのは実体があるものなのか。それを確かめたく思い、手を伸ばそうとすると止められた。

「触らないで」
「なぜだ?」
「これには私の能力を封じ込めているの。今はまだ未熟だから駄目みたいなんだけど……予定では、弾丸が当たったら相手が気絶するはずで」
「…………気絶、か」
「今日は全然駄目だった。…………悔しい」
「……なまえは十分よくやっている」
「ほんとっ?」
「あぁ……」

嬉しそうに口元を綻ばせる姿に安堵する。根を詰めすぎていないか、それが心配だったが……、これならば大丈夫だろう。

ぽんっ――、なまえの頭に手を置いて言う。

「ほどほどにして戻って来い」

頷きと共に返ってきた抱擁を受け止めつつ、技が出来るようになったときのために名前を考えておいてやってもいいかもしれないと思った。能力者達はそれぞれ技名を付けているという話を聞いた。

俺が考えていいものか、……いや、考えるくらいは自由だ。どうせなら良い名前をつけたやりたい。まぁ……なまえのネーミングセンスが皆無だという理由も否めないが。

「技が出来るようになったら、俺が名前をつけても?」
「!」

花が咲いたように笑ったなまえが、最高に嬉しい――と言ってくれたことがここ一番の俺の喜びとなった、そんな一日だった。

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