いつかの貴女に会いたくて

炬燵で食べるアイスほど贅沢なものはない。そう言いながら背中を丸めて棒アイスを頬張る。どこからともなく現れた父さんがどっしりとソファに腰掛けた。その様子を横目に見つつ、ぼーっとTV画面に目を向けた時だった。「なまえ。お前、見合いをしないか?」父さんから発せられた突然の一言に目が点になった。

「……はい?」

とろり、と溶け出したアイスが人差し指に流れてくる。慌ててアイスを口に突っ込んでどうにかその場を凌いだ。我ながらナイス判断。

「どうだ?」
「いひゃ、……いひゃいひゃいひゃ」

取り敢えず、アイス食べ終わるまで待ってくれないかな、父さん。ぶんぶんと首を横に振る。えーなんでだ? と不満げに首をかしげる父さんに言いたいことがたくさんあるんだけど……、ちょっと待って、今口の中にアイス入ってるから!

 

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確かに押し切れなかった私も悪い。でも、父さんも父さんだよ! 私、まだ21歳だよ。大学3年生。お見合い? それより就職が先、もっと言えば、卒業できるか危ういというのに。

「はぁ……」
「あんたのところの親、本当に過保護よね?」

隣でクスクスと笑うその人に鋭い視線を向ける。それに動じることなくにんまりと口元を緩ませたオレンジ色の髪の女性。その人がひらひらと片手を振りながら言った。

「はいはい、怒らないの」

いつもの通り、そう言って軽く流されちゃ返す言葉もお決まりのものしか返せないというものだ。

「……ナミのバカ」
「失礼ね! ちゃぁんと話し聞いてあげているでしょ?」
「コーヒー奢ってくれるなら聞くって言ったくせに」

薄情者~、唇を尖らせる。ごめんごめんとナミが笑った。これもいつものこと。

「それで?」
「ん?」
「どうなったの?」
「どうって?」
「お見合い! するの?」
「……ソウミタイデス」
「他人事みたいに言わないの。そうみたいって自分のことでしょ?」
「……うん。だって、父さんったら返事する間もなく相手の方の紙を渡して、時間と場所だけ言って出ていくんだもん」
「さすが、なまえのお父様ね……」

しぶしぶ行かされることになった私の立場になってくれているのか、不憫そうに眉を寄せたナミが続けて言った。

「いいじゃない。あんたの家、お金持ちだし、就職しなくても大丈夫でしょ?」
「ん、まぁ……」
「贅沢言わないでよ!」
「いやいや、ナミさん? あなたも結構お金もってますよね?」

それはおかしいでしょ。そう問いつめるように聞くと、何のことやら?と目をそらされてしまった。

「そんなことより! 相手は!?」

くそう、うまく話を逸らしたな。軽く睨むと、いいじゃないのとウィンクするナミの笑顔に頬が緩む。ナミのその顔には勝てない。だって可愛いんだもの。

「この人だって」

カサッと隣に置いていた鞄から紙を1枚取り出す。それを受け取り、ササッと目を通したナミが言う。

「え、何この人!?」

社長じゃん!

その言葉に泣きそうになる。渡された紙、ちょっとした履歴書にはあの有名会社の社長と明記されていた。いいなぁ~! と目を輝かせるナミに反して肩を落とす。だって……。私、ただの大学生だよ。もう会うのが不安でしかない。うるうると視界が潤んでいく。それを見たナミがしょうがないわねと苦笑いを浮かべた。

「分かったわ。私もそんなに分かる訳じゃないけど、簡単なマナーなら教えてあげるわよ」
「ほんとッ!? ありがとうー!!」

その手に飛びついてお礼を言うと、お礼はランチでいいわと言われてがっくりと肩を落とした。そりゃナミが無料で何かするわけはないから当然なんだろうけどさ。はぁとため息を吐き出しつつ、「はいはい」と力なく返事を返した。それを聞いたナミはそうこなくちゃ! とにこにこと笑い、「じゃあさっそく!」とはりきって立ち上がって私の腕をしっかりと掴んで引っ張っていったのだった。……いろんな意味でこれから先が不安すぎるんですけど。

 

お見合い当日。ナミに言われたとおり、カジュアルな格好で、崩しすぎないようにベージュのワンピースを着てきた。最近のお見合いは昔のように高級料亭のような格式高いところではやらなくなっているらしい。二人で軽くランチを食べて、お話する程度だから安心しなさいって聞いていた。

なのに。

「……ここは何ですか?」

紙に書かれた場所にちゃんとたどり着いたのはいいんだけど……。風が吹き、危うく紙が飛ばされそうになって我に返る。見上げる先は高層ビル。もしかして、と思い、カバンから見合い相手の履歴書を取り出す。んっと確かここら辺に会社名が……

「あ――……」

とりあえず、ナミに電話することにした。

「はぁ? お見合いの場所は相手の会社? え、何、会社に呼ばれたの!!? もしかして、実は採用試験だったとか?」

電話の向こうでお腹を抱えて笑っているであろうナミにイラっとしつつ答える。

「……私真剣なんですけど」
「あぁ、ごめんごめん。でもさ……あははっ!「ちょっとナミさん!」」

後ろから聞こえる声に体が反応する。

「あれ、ビビもいるの?」
「あ、うん。今ねあんたの成功を祈って待機中なの。まだ言うつもりなかったんだけど、終わったら今日は飲みに行きましょうね?」

愚痴りたいこと出てくるでしょ?  可憐に笑う電話越しの友人に泣きそうになる。こういうところは気が回るんだからほんと!

「あ、でも、おごってよね? 「ナミさん!  もう、代わって下さい!」え、ちょっと~」

ガシャガシャと音がした後、数秒して電話の相手が代わった。

「なまえさん、おごらなくていいですからね」
「ふふふ。ありがと」
「そう肩肘張らずにがんばって来て下さい! 私たち待ってますので、終わったら連絡下さいね」
「うん! じゃ、行っていきます」
「はい、また後で……」

ビビからの応援の言葉に癒され、プツンと電話を切り、自分に言い聞かせる。よし、会ってご飯食べるだけなんだから気負いすぎずにいこう。でもその気合いもビルに入って数分で打ち砕かれることとなった。

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