「あのーそろそろ降ろしていただけませんかねぇ……」
現在進行形でお尻からがっつりと抱き上げられている私の視界はスモーカーさんの頭より少し上だ。彼がズンズンと歩くものだから揺れる揺れる……うっ……気持ち悪い……。
「いやほんとすみません、ちょっとだけ休ませてください、このままだとアクアラグナ出します……」
「はぁっ!? ったく、お前、戦闘訓練している割には体が弱ぇぞ」
ようやく降ろしてもらえた。あー気持ち悪い……頭がぐるぐるする。
「……色々言いたいことはあるんですけど、すみません、ちょっと座ってひと休みを……」
「水でも飲むか?」
「…………あるとすっごく助かります、はい……」
じゃあすぐそこの店で買ってくると言ったスモーカーさんをぐるぐると回る世界の中でどうにかこうにかと見送る。も、いっそ、ここで寝てしまいたい……けど、流石に――その日の私の記憶はそこで途切れた。
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「う……う、うん……」
心地よい微睡みのもと目を覚ます。見慣れた部屋……海軍の宿直室だ。あーあれぇ? 首を捻る。私、どうしてここにいるの……?
「なまえさんっ」
顔を向けた先にいたのはたしぎちゃんだった。彼女の話によると、酔い潰れた私をスモーカー中将が抱えて連れ帰ってきたということだ。あー記憶が曖昧だ。
左側こめかみがズキズキ痛む。完全なる二日酔い。
「……大丈夫、ですか? 顔色が良くないですよ」
「ごめん……たぶん普通に二日酔い」
「もー毎度毎度。薬、もらってきますね」
「ううん、いいのいいの。たしぎちゃんの方が位が上なんだから色々とやることあって忙しいでしょう? そんなに気を使わないで」
私とたしぎちゃんはG5で一緒になって意気投合して、まるで姉妹のように仲良くしている。……が、私の方が年上だということで、たしぎちゃんの方が上なのに何かと気を使ってくれている。
「まーたそういうことを。私の好きでやっていることなんですから」
にこりと微笑まれたら言い返せない。
「……いつもありがとう」
軍医の元へ薬を取りに行くたしぎちゃんの背中を有難く見送った。
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その日の夕方、二日酔いの薬がしっかりと効いたおかげで、二人のお見送りをすることができた。
「スモーカー中将、この恨み、忘れませんからね!」
「恨……おまぇなァ……ったく。上等じゃねぇか。中尉に昇格したら、迎えに来てやるよ。それまではこっちで足掻けよ」
両腕を組んでふんぞり返ったスモーカー中将に「当然です」と返して胸を張る。G5では恒例だった見栄の張り合いだったが、……これから先、そんなことに付き合ってくれる人はもういない。
「……たしぎ。渡してやれ」
「はい、スモーカーさん」
差し出されたのは服……?
「着てみろ」
「あっ、はい」
バサリ――広がったのは、大きく「正義」と書かれた海軍の制服だった。
「っ、これっ」
「お前はいっつも短パンはいてるから、それに合わせて短いのを作ってもらった」
まるで少し前にスモーカー中将が来ていたジャケットだ。うわ……どうしよう。すごく、……嬉しい。
「っ、ふ……」
「泣くんじゃねェよ。なんだかんだ本部にはよく来ることぐらい知っているだろ。今までとあんまり変わりゃしねェ……」
「……はい」
違うんです。これは嬉し涙で……喉が詰まって声が出ていかない。
「っ、たく。おめぇは本当に泣き虫だな。……おい、たしぎ。先に行って出航準備していろ。俺が入ったらすぐに出れるようにしとけ」
ふふふっと笑ったたしぎちゃんが、「分かりました。なまえさん、ではまた来月に来ますね」と言って去っていった。
「……ほら、胸くらい貸してやる」
「っ、は”い”ぃぃぃぃ」
スモーカー中将の体にぎゅうぅぅぅとしがみ付く。背中に回った手の平が優しくとんとん、とあやしてくれた。
「……お前、昨日ことどこまで覚えている」
「え? あ……毎度のことながら、ぜんっぜん……です、ハイ」
なまえは酒を飲み過ぎると記憶を飛ばす。それは近しい者なら誰でも知っていることだった。だから、スモーカーは彼女が酒を飲む席には注意を払い、記憶がないままに誰かに手折られてしまわないように目を光らせていた。
……だからと言って、その誰かに俺がなる気はないが。このままなまえの気持ちがあやふやでいるのであれば、手を手繰り寄せて懐に入れてしまってもよいのかもしれない。恋だの愛だのに興味はない。だが、大切だと思う気持ちはなんとなく分かってきていた。
「いいか、このジャケットは俺……いや、G5から餞別だ。お前がG5を背負っているとも取れるかもしれねぇが……」
「……?」
「……俺たちがなまえをいつも守っていると、それだけは忘れるなよ。お前は一人じゃない。困ったときは今まで通り、俺を頼れ」
「……かっこいい台詞言うだけ言って、頼れって言うなら連れってくださいよ。私はG5に居たいのに」
じゃあちゃんと向き合わないとな。これから先はそんなに甘くはない。気掛かりを残したまま、渡れる世界じゃない。
「あれからずっと、逃げてんだろ。さっさとケリつけてこい。話はそれからだ」
ハッと顔を上げたなまえが俺のことを見つめていた。

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