「お~、思ったよりも元気そうだな」
血眼になって打ち込んでいたタイプライターから顔を上げる。待ちわびていた人が来たのだ。
「スモーカーちゅ~じょ~!! 会いたかったぁあああああ!!!!」
ガタンッ――椅子が倒れるのも無視して、思いっきり飛びついた。うぐっ――呻き声すら懐かしくて涙がちょちょきれそう。
「っ、てめぇ、上司に向かってそれはねぇだろ……離れろ」
「嫌です! さ”み”ぢがっだァ!!!」
「…………はぁ」
「分かったから、落ち着け」
私を抱き抱えたまま、倒れた椅子を拾い上げて、椅子に座るように促される。椅子に座ったところでようやく注目の的になっていることに気が付いた。周囲の目線が私たち二人に向けられている。
「あーすまん。気にせず業務に戻ってくれ」
すると、再びガヤガヤと辺りが騒がしくなった。
「……すみません」
「いやいい。……それより、業務はどうだ」
「だいぶ慣れてきました」
「そうか、そりゃァ良かった。困ったことは?」
「ん~、そう……ですね。戦闘に出る機会がなくなったので、運動不足ではあります」
リズムの良かった返事が途切れたので顔を上げた。真ん丸に両目を見開いたスモーカー中将が急に笑い出す。
「っ、ハハハッ! やっぱりてめぇはそうじゃないとな。変わりなくて安心した」
「…………なんか、馬鹿にしてません?」
「いや、別に?」
そういう癖にまだ笑っているのでこっちも剥れずにはいられなかった。
スモーカー中将はいい人だ――上司だから部下を大切にするというよりは、誰に対してもいい人だ。言葉は悪いし、態度もデカいからよく勘違いされる。G5に配属されているっていうのもある。でも、その下についた連中は皆、漏れることなく、彼のことを尊敬する。彼は人を大切にしてくれる。例えそれが、自分の腕の中にない人でも、
私がモモンガ中将に置いて行かれて、心の底から落ち込んでいたときのことだ。いなくなった自分のところの艦隊があったドックの欄干に立って、遠征に出て行った皆のことを考えていた。私がもっと強ければ連れていってもらえたのかな、とか。もっと食って掛かっていたら折れて連れていってくれたのかな、とか。たくさんのことを考えた。私は、事務を中心に働いていたけれど、招集があれば戦闘に参加する立場だ。そんな立場の人が招集から漏れて、一人だけ残されている。まるで爪弾き。
ぼろぼろと涙は落ちていく。モモンガ中将、私はそんなに頼りないですか。これから強くなるのは駄目ですか。……どうしたら、強くなれますか。毎日、ちゃんと訓練しています。どうしたら強くなるのか、分かりません。……どうして、他のみんなみたいに、私には指導してくれないのですか。
――ずっとずっと苦しかった。それが、この遠征を機にして、表にさらされた。私が隠し続けていた、嫌なところだった。
「……どうした?」
同じ欄干に、一人の海兵が立っていた。真っ白い髪に、顔面には痛々しい縫い傷。葉巻を二本咥えて、モクモクと白い煙を上げている。肩には将校を示す真っ白なコート。その後ろに見えなくとも、彼が『正義』を背負っていることは一目瞭然だった。
見知らぬ男は私の話を聞いてくれた。そして、手を差し伸べてくれた。
「嫌なら抜け出せばいい。……俺んところに来るか? 歓迎するぞ」
爽やかな海風が吹き抜ける。その瞬間、すべてが吹き飛んだ。迷わなかった。私は腕を伸ばした。差し出された手の平に、そっと手を置く。
「決まりだな」
シシシッ――その瞬間から彼は私の光になった。

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