朝になって、シャンクスと船に戻った後、レイリーにこってりと絞られた。
「君は自分が何をしでかしたのか分かっているのか」から始まって、「心配するこちらの身になってみなさい」となり、最終的には「…………まったく、無事で良かったよ」に納まるまで、1時間ほどかかった。1時間……1時間だよ!? しれーっといなくなったシャンクスを恨みながらなんとか説教を耐え忍んだ。よくやった私。
ため息を吐き出したレイリーが「あぁ、もう行っていい」と言うや否や「はい!」とその場を離れた。えぇ、恐らく、私が全然反省していないことにレイリーは気付いている。それでももうそれ以上言わないのは……まぁ、『いつものこと』というわけで。これ以上言ったところで意味がないと知っているのである。……不出来な弟子でごめんなさい。
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「お! なまえ。もう終わったのか!」
「うん、やっと解放された……!」
「はははっ」
お腹が空いたと駆け込んだ先の食堂では一足先にシャンクスが食事にありついていた。料理を持ってその向かい側に座る。
「でもな。レイリーさんの言うとおりだぞ」
「ん、何が……?」
「お前には危機感ってもんがねぇ」
「危機感? 何それ」
「危機感って言うのは……」
「言うのは?」
シャンクスに顔を付き合わせて先を急かす。彼はもったいぶっているのは溜めに溜めていて、手に持つフォークを振り回す。行儀が悪い! と言う前に、赤っ鼻がどかどかと歩いて来ているのが見えた。
「おいおいおい。ハデに低レベルな会話をしてやがんな、てめェらァ!!」
「バギー! おはよう。見張り番終わったの?」
「おはよう、なまえ。あぁ、交代してきたぞ。それより、お前ら、何だよその話は……!」
「なんだよ、とは何だ。別に普通に話してだけだし」
「はぁ? 普通は『危機感』の意味について話さねェだろうよ」
「え、そうかな? ん~、じゃあバギーは分かるの?」
「当然だろ。危機感ってェのは、『困難な状況に陥る可能性を察する』ってことだ」
「…………はぁ?」
何言ってんの、この人――とバギーを見たら、「いやいやいや、お前の方がおかしい」とシャンクスとバギーの二人にドン引きされてしまった。
「え、嘘? まじですか……?」
戸惑っているとき、ちょうど食堂に別の人が入ってきた。船長だ。
「ロジャー船長! ちょうどいいところに!」
シャンクスが片手を上げてぶんぶんと振っている。そんなに振らなくとも、声だけで分かるというのに。そういうところは微笑ましいくらいにガキなんだから。
「なんだ、シャンクスに……バギー、なまえ。お前ら相変わらず仲がいいなァ!!」
「聞いて下さいよ! なまえのやつ、『危機感』が何か分からねぇっていうんだぜっ」
「…………うむ、まぁ……なまえはなぁ。そりゃあ、そうかもしんねェな」
え、何その反応。
ちらりとこちらに目を向けたロジャー船長はそれ以上言及することもなく、ただ「なまえには難しいだろうな」とだけ言った。そんな言い方されちゃぁ引き下がれる訳がない。……ほらぁ!! シャンクスとバギーなんて、笑うの堪えてるじゃないの。散々私に可愛がってもらっていた癖に、あいつらァ……!!
「えぇ! ちょっとロジャー船長! それって私がそれくらいも理解できない頭ってことですかァ!!!!」
「えっ、いやいやいやい。違う、違うだろう。なまえ」
「え、違うの?」
「だってお前、強いじゃん」
「…………あ、」
確かにそうだった。
私は悪魔の実の能力者で、その性質上、身に危険が及ぶことがほとんどない。この船に乗ってからは一度もなかったのではないか、……いや待て、違う。
「まぁでも、さっきみたいにレイリーに圧かけられた時に感じるのが、危機感ってやつだと、俺は思うけどな……」
ハハッと軽く笑って退けたロジャー船長。どうやら今朝の私とレイリーの押し問答を見ていたらしい。むぅ――頬を膨らませて抗議の目を向ける。
「おぉ、むくれたむくれた……!」
くすくすと笑いながら、シャンクスがそう言って、バギーがけらけらと笑う。それを睨み付けながら、先ほどロジャー船長に言われたことを思い浮かべる。確かに、ずしん――と体に乗っかった重みからは逃れようがなく、「一体何をしていたのやら」と耳元で囁きながら横髪を手で梳かれたときにはレイリーから殺意を感じた。……いや、ほんともうあのまま首を絞められるんじゃないかとあの瞬間はそう感じた。それでも微動だにできなかった。レイリーと私の間にある力の差は天と地ほどもある。だから、動きたくとも1mm足りとも動くことができなかったのだ。……まぁ、それに……殺意を感じたのはほんの一瞬で、彼が私に危害を加えることはないと理解しているから、動く必要はなかったし。……なんて、言い訳を思ってみたりする。
「あぁそうだ、なまえ。お前に手紙が来ている」
「……手紙?」
ロジャー船長は空いた時間に部屋に来るようにと言って去って行った。
「お前に手紙なんて珍しいな」
「うん。本当に珍しい。誰からだろう……?」
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「失礼します」
「おぉ、来たか」
船長の部屋、そこにはロジャー船長とレイリーがいた。何か込み入った話をしていたところなのだろうか。
「あの、出直した方が良ければ……」
「いや、いい。なまえはこのまま居てくれ。……悪いな、レイリー。なまえと二人きりで話がある」
「…………あぁ、分かった」
レイリーが私の横を通り抜けていく。軽く目配せを交わしながらその顔を盗み見た。特に普段と変わらないように見えた……ただ、なぜだか胸騒ぎがした。
「まぁ、座ってくれ」
「……はい」
「まず始めに、すまん。手紙はない」
「……はい? どういう……」
「手紙はただの口実だ。本当の目的は、」
ぺらりと目の前に差し出された封筒。それは昨日、ツリーハウスの中で見つけた姉からの手紙だった。
「え、あっ、あれ……!?」
「……悪い。読むつもりはなかったんだが、」
確かに胸元に仕舞い込んでいたはずなのに、一体どうして……。ハッ――と浮かんだのは、レイリーのあの行動……もしかしてあのとき?
「この名がどうしても気になってな……」
「名……?」
差し出された封筒をひっくり返したところにある名、それは姉、ルージュの名前だ。
「ここに、ルージュとある」
「姉の名前に何か……?」
「姉……か。あぁ……道理で見たことがあったわけだ。なまえ、お前はルージュの妹だったんだな」
「…………?」
全然話が読めない。どうして、船長はそんな風に姉のことを話すのか。その言いぶりだと、まるでロジャー船長とルージュが――
「はっ、えっ!? まさか、嘘ッ!?」
「いやまぁ……」
照れくさそうに、笑顔を浮かべた船長が「そういうことだ」と言った。
「えっ! じゃ……じゃあ、この、ここにあるルージュの相手って……」
「俺、だな……」
「っ、何それ。何この展開ッ!!」
まさかルージュの腹にいる子の親が、ロジャー船長だなんて、一体誰が思おうか。
「……え、あの。なんと言いますか、頭が付いてきていないんですけど」
椅子に座っていて良かった。頭を抱えながら体を折る。額に手を置いて、状況を飲み込むために鈍い頭を必死で回した。手紙には姉のお腹に子供がいることが書かれていた。事情があって、このまま島に留まることはできない。そのために別の島に移動する、とあった。手紙には島の名前が書かれていた。だから私はそこへ行こうと考えていた。もちろん、それは個人的なことだ。だから、一時的にでも船を下りようと、そう思っていた。これはまだ誰にも話していないことだ。
「姉の……、なぜ島を出なければならないのか、そのことは書かれていなかったので、事情が分かっていないのですが……」
「あぁ……それは俺のせいだ」
「…………船長の?」
「俺の血は、この世においては災いそのものだろう」
「そんなこと……誰にだって、幸せになる権利はあるはずです!」
「あぁ、だが。これから先、俺は有名になる」
「…………」
船長の計画については、一部の船員は知っている。その中に、私も入っていた。……たしかに、船長の計画が進めば、彼の血は悪鬼だと言われるかもしれない。……ただ、血がつながっている、たったそれだけのことなのに。
「ルージュには、生きて欲しい」
「……はい」
「なまえ、頼みがある」
「……はい。なんなりと」

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