お願い、消さないで(150715)

海軍本部――

「そう言えばさっき見慣れない奴がいてなぁ」
「見慣れない奴?」
「そう、なんかフッサフッサの羽の付いたコートを着てて……」
「それどこ?」
「ん、お鶴さんの部屋の……」
「ごめんちょっと用事ができた。これ任せた!」
「え、おい!!」

面倒な書類整理を同僚に押しつけて走る。彼だ。彼が帰ってきたんだ。扉の前に立って一呼吸。逸る気持ちを抑えつつ、扉をノックする。

「誰だい? 今は来客中だよ」
「お鶴さん、私です!」
「……」

数秒後、ゆっくりと扉が開いた。部屋の真正面にある執務机にはお鶴さんが座っている。……ということは、私のお目当ての人が扉を開いたようだ。急いで振り返る。視界はスローモーションで流れていった。

「コラソン!!」

ゆっくりと視界に入ってきた彼はニコリと笑って軽く手を挙げる。頭の中のままの彼がそこに立っていた。高鳴る鼓動、一気に体温が上がる。話したいことが山ほどあった。けれど、2人はまだ話すことがあるらしく今すぐに彼を連れ出すことはできそうになかった。仕事だから仕方がない。すごすごと引き下がろうとすると、彼が小さなメモを渡してくれた。そこに何が書かれているのか見なくても分かっていた。彼の顔を見て頷いて返し、鼻歌を歌いながら部屋を後にした。

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「お待たせ」
「コラソン!」

海軍本部の中でも本当に限られた人しか入ることが許されない建物。その中にある小さな中庭は私とコラソン、2人の憩いの場だった。私は彼の部下で同じく潜入捜査を主な任務としている。海兵として過ごした日数よりも海賊として過ごした日数の方が、たぶん多い。

コラソンとは違うところへ潜入しているためこうして会うことは滅多になかった。だから本当にうれしい。彼は仕事で別の人格を演じている。その上、潜入先では「声を出すことができない」と思われているらしい。本当に不便な思いをしていることだろう。お陰でこっちも迂闊に彼に話しかけることができない。でも、ここでならコラソンと堂々と話すことができた。

互いの今の仕事の報告をすれば、やはり危険な仕事だということが身に染みる。

「ねぇ、コラソン」

この名は本当の名前ではない。そして、私は彼の本当の名前を知らない。

「どうした?」
「昨日夢を見たの」
「夢?」
「あなたが遠くへ行って戻らない、そんな夢……」

どうしてだろう。その夢はひどく現実味を帯びていて。もう彼はこの世にはいないんじゃないかって。そんなことを思ってしまった。だから今日コラソンに会うことができて本当によかったと安堵している。

「……なくはない、よな」
「え?」
「俺たちは立場上、いつ殺されてもおかしくない」
「うん」
「明日俺は生きていないかもしれない」
「……コラソン」

どうしたんだろう。今日の彼はいつも以上に悲しそうな笑顔で笑う。うつむく彼の顔をのぞき込む。そうするとこちらに気が付いたコラソンがニコリと微笑んだ。彼の笑顔が好きだった。メイクのせいでいつも笑って見えるコラソン。そんな彼の心は笑っていないことが当たり前で。いつしか、そんな彼をなんとかしたいと思うようになっていた。そう……いつの間にか彼のことを好きになっていた。

「そろそろ戻る。潜入先の集会があるからね」

立ち上がったコラソンはヒラヒラと片手で手を振って去って行こうとする。どうしてだろう。こんなに不安になるのは。

「コラソン!」

今言わなくちゃ、絶対後悔する。そう思った。

「なまえ?」
「私、コラソンのことが……」

「  」

言ったはずの言葉が聞こえなかった。彼が微笑んでいた。彼の名を呼んだ。でも音が出なくって……こんな短い四文字の名前なんだ。自分の名前が呼ばれていることぐらい分かるでしょ? ねぇ、コラソン!! 何度も何度も呼んだけど、音は出なくて。代わりに涙が溢れこぼれて落ちていく。ガシガシと腕で邪魔な涙を拭い、それでも彼を呼んだ。

彼は首を振る。そして、振り返って歩き出してしまう。待って、行かないで。叫んだところで彼には届かない。駆け寄って腕を掴んでも、彼はこちらを振り向こうとはしなかった。それはまるで私の言葉を聞かない。聞きたくないと言っているようで。グサリと胸に突き刺さった。掴んでいた手を緩めると、彼はピクリと反応する。そして、ほんの少しだけ顔をこちらに向けた。彼から私の顔が見えているかどうかなんて分からなかった。けど、私は目に涙をいっぱい溜めて、精一杯の笑顔で言った。

だ い す き。

彼は立ち止まらなかった。体から力が抜けた私はその場にヘタリ込んでしまう。拭っても拭っても涙が止まらなかった。思いを伝えることすら許されないのか。こんなに好きなのに。彼が大好きなのに……伝えられなかった。私、どうしたらいいの。どうしろって言うの? 目を閉じたら暗闇が私を包み込んだ。

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:

「……なまえ」
「……え?」

声がした。声が出た。コラソンが目の前に立っていた。彼は私の前にしゃがみ込むと、頭に手を置いて撫でてくれた。嬉しかったけど、なんで戻って来てくれたのか分からなかった私の顔はきっとアホ面だったと思う。そんな私を見てクスクス笑った彼が言う。

「ごめん」
「……うん、だよね」
「そうじゃなくて、先に謝っておく」
「え?」
「俺、たぶんもうすぐ死ぬと思う」
「は?」
「だから、先に謝っておく。ごめん」
「……コラソン?」
「だから、なまえの想いを俺は聞かない」
「……なんで?」
「もうすぐ死ぬような奴に捕らわれるのはよくない」
「っ!? ……そんなの……」

そんなの彼の勝手だと思った。嫌々と首を振ると彼がウィンクをする。

「サイレント」

コ ラ ソ ン !!

パクパクと餌をねだる鯉のように私の口は動くけれど、やはりそこに音はなく。私を見た彼は笑いながら言った。

さ よ な ら

そんなことを言われて、今にも泣いてしまいそうな笑顔を見て、放っておけるわけがない。彼のお気に入りの帽子。両側から垂れ下がる紐を思い切り引く。すると、ドンッと彼が尻餅を付いた。彼がドジっ子で良かったと心の底から思う。弾みで能力解いちゃうなんて、ほんとドジ。

「った~」
「馬鹿馬鹿馬鹿! 馬鹿コラ!!」
「なっ!「好きだ。大好きだ! コラソンが大好きだ!!」」

男顔負けの告白だと思う。それだけ必死だったんだ。でも恥ずかしくて、真っ赤になった顔を見られないようにうつむけていた。答えはNOでもいい。いいんだ。伝えられたんだから。

「知ってるよ、そんなの。君はずっと、ずっと俺を見てそう言っていたじゃないか」

君の目は口よりもよくしゃべる、優しく囁くような声の後、グスリと鼻をすする音がした。その音に反応して自然と頭が上がる。

「だから、聞きたくなかったんだ。聞いてしまったら、もう俺は……君を離せなくなってしまう、だろ……っ」

コラソンが泣いていた。いつも切なげにしていた笑顔。泣きそうで泣かなかった彼が涙を流していた。

「コラソン……」

両手で彼の頬を包むようにする。

「ねぇ、あのね」
「うん」
「私コラソンが大好き」
「……うん」
「コラソンは?」
「好きだよ。ずっと好きだった」
「っ……」

未だ泣きやまない彼が愛おしかった。首に腕を回してぎゅと抱きついた。しばらくして落ち着きを取り戻した彼を見て思う。

「……その真っ赤な紅でキスしたらさ」
「……うん?」
「どこにキスしたかバレバレだよね」
「……あ~、考えたことなかった」

でも、それいいな。キラリと光る彼の目を初めて見た。ニッコリと目を細められたら、もうそれだけで蕩けてしまいそう。

「キス、してもいい?」
「うん。コラソンの好きなようにして」
「そうする」

― ロシナンテ視点 ―

 

……あ!

キスの直前。唇が触れるか触れないか。それぐらいの距離。じらされながら彼女の言葉を待った。

「ハッピーバースディだね! コラソン!」
「ロシナンテ」
「うん?」
「俺の名前」
「ろしなんて?」
「うん、なまえ。俺の名前呼んで?」

150715 End.

Afterword

ついにやってしまった。キャラ違っていたら本当にごめんなさい!!

かなり強引な設定になってしまいました。……見逃して下さい(-_-;)コラさんってもし生きていたらものすっごい素敵な叔父様になっていたと思います。っていうか、26歳って。……見えないww あの長身であの落ち着きっぷりを見たら叔父様好きとしては黙ってられないですね。私は叔父様が好きって言いますが、私が好きな叔父様は実際の年齢よりも精神年齢が40,50……それ以上、の人を指します。

……つまり、コラさんも入るんじゃね?(広い、範囲が広すぎる)とか、語ってみたりww

コラさん!!お誕生日おめでとう!!間に合って本当に良かった(*^_^*)

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