02

「なまえちゃ~~ん」

やっ、と軽く手を挙げながらどうどうと入店してきた大男。白いスーツに青いシャツ。カツンカツンと靴を慣らしながら、その人はにこにこと笑いながら歩いてくる。

「クザンさん、お久しぶりです」
「ん、久しぶりだね。元気だった?」

手慣れた手つきでスーツの上着を脱ぎながら部屋へ入っていくクザンさんの後ろに付いていく。本当だったら私が先に行って案内するんだけど。クザンさん歩くの早いから。

颯爽と部屋に入っていく背中を追いかける。部屋に入ったときにはもうすでにクザンさんはシャツまで脱いでいて、施術台の上に寝転がっている。うん、さすが常連さん。くすくすと笑いながら、大変お待たせいたしましたと側に歩み寄った。

「なまえちゃ~ん。今日は上半身中心でお願い」
「はい。かしこまりました」

乱雑に椅子の背もたれに掛けられている上着とシャツとベルトを回収し、ハンガーに掛ける。部屋に備え付けられているタオルとオイルが積まれているカートと背の高い椅子をひっぱりだしてきて、クザンさんが寝転がっている台の横に座った。

「オイルどうしましょう?」
「ん、おまかせで」
「ん、と。じゃあアロエにしましょうか」

とろりとろりとオイルを落としていく。

「ん、冷たい」
「ふふ、我慢して下さい」
「え~、始めの頃は暖めてから置いてくれていたでしょ?」
「それはそれ、これはこれです」
「え~……」
「いいんですよ?また前のように丁寧にしても。でももしそうするなら他のサービスを全部……」
「あ、ならいいや」
「即答ですか、さすがです」

くすくすと笑い声を漏らせば、当たり前でしょ? とクザンさんが言った。それを横目に見ながら、背中に落としたオイルをゆっくりと塗り広げていく。もう結構な歳なはずなのに、クザンの体は相変わらず引き締まっていて、ほんと凄いと思う。そして、凄い色白。とっても羨ましい。

「ね、なまえちゃん」
「ん、はい?」
「クザンって呼んでよ」
「いいですよ、クザン」
「敬語も、」
「あ、はい」
「…………」
「ん、ごめん」
「それでよし!」

背中全体に塗り終わったオイル。手の平についたものをタオルで拭き取り、クザンさんの頬を優しく撫でた。

「オイルは終わり?」
「ん、終わり」
「じゃ、マッサージお願い」
「りょーかい」

ウィーン、と機械音がして、クザンさんが横になっている施術台がゆっくりと下に降りていく。一番下まで下がったのを確認して、服をたくし上げ、その上に跨った。

「いつも思うけどさ」
「何?」
「なまえちゃんの太股、柔らかいよねぇ~」
「――ッ、……悪かったわね。どうせ太いから」
「いやいやそんなこと一言も言ってないでしょう?」
「だって太いからクザンに当たるんじゃんか。これでもダイエットしてるんだよ?」
「ふ~~ん」

まぁ、私の太股が太いせいもあるけど、クザンの背幅が広いせいでもある。そこは言わないけど。

「ん~、結構こってるね? 肩甲骨ら辺特に硬い」
「あーやっぱり? 最近事務仕事が多くてさ」
「えっ? クザン事務仕事とかするの?」
「ちょっと、酷くない?」
「え、だって営業でしょ? 事務仕事なんて、会社にいる事務所の女の子がやってくれるんじゃ…………あれ、違う?」

そういう会社で働いたことがないから、定かではないんだけど、と続ける。

「んーそうだねェ。少し前まではそうだったんだけどさ、やめちゃったんだよね」
「……まさかセクハラで、とか言わないよね?」
「ん、まァそこはノーコメントで」
「ちょ、さすがにそれは」

それはない、それはないわー、と背中から手を離して、あからさまに白い目を向ける。そうすると、両手を着いて、少し上半身を起こしたクザンさんが顔をこちらに向けて言った。

「あのね、冗談って知ってる?」
「あ、……冗談なんですか?」
「……ちょっと、待って。なまえちゃんが俺のことどういう風思ってるかなんとなく想像がついたから、ちょっと1回話し合おうか」
「えぇ、別にいいですって」
「ほら、また敬語」
「あ、ごめんごめん」

さ、戻って戻って! と軽くぺちぺちと背中を叩く。もー、と不満げな声を出しながら元の状態に戻ったクザンさん。それからはぐだぐだと仕事の文句をいいながら素直に施術を受けてくれた。

送信中です

×

※コメントは最大500文字、5回まで送信できます

送信中です送信しました!