71:召使いの処遇

 

バッリィ――――ン

 

盛大な音と共にガラスの破片が飛び交う。咄嗟に両腕を上げて顔をかばったけれど、ほぼ同時に凄まじい威圧に遭い、膝から落ちた。覇王色の覇気に耐えれるようになったとして、戦闘における威圧はまた別物。……ふっつうに、怖い。

「あららら~、大丈夫?」
「…………え、な、何事?」

幸い、ガラスが腕に刺さることはなかった。あっという間に現れた氷の板がガラスを防いでいる。お礼を言う余裕もない。私は腕を掴んで支えてくれたクザンさんを見上げることしか出来なかった。

「センゴク!! どういうこっちゃァこれはァ!!」
「落ち着けサカズキ! もう決まったことじゃ。お前がわしの部屋を破壊しようがどうしようが、変わりはせんんんっ!!!!」

――これは一体どういうことなのッ!? しばらく部屋で待機と言われて、数日謹慎していた私は元帥に呼ばれて部屋に来ている。処遇が決まったんだろうと緊張しながら部屋に入った途端にこれだ。

「ほら、頑張って自分の足で立って」
「あ……すみません」

はらりと落ちて来た前髪が元帥とサカズキ大将を分断する。決裂していることは分かるけど……。部屋中に目を向けて状況を飲み込む。元帥と三大将、そして……私。どう考えても私の処遇で揉めている。脂汗がじわじわと滲み出ていく。部屋は大荒れだった。壁があちこちひび割れているし、ところどころ燃えて黒くなっている。……あれ? でもそれっておかしいよね。てっきり最悪な結末を想定していた私は、どうやって死を回避するか(元帥を言い含めるか)、を考えてきたんだけど、これって……サカズキ大将が暴れまわるということは、彼の納得のいかない結末……、つまり! 私にとっては良いことなのでは?

――――と、視界の端にフッと黄色が映った。

「わっしは歓迎するよぉ~~」

いつの間に……? ゆっくりと顔を上げていく。ボルサリーノ大将だった。

「……歓迎?」
「ごめんねぇ、本当は先に説明するところなんだけど、あの人が暴れまくるからさァ」

更に並んだ青いお方。からからと笑うお二人に瞬く。ここまで来たら予想は確信に変わる。え……もしかして私、海軍に入ることが決まったの?

:
:

「ようやく終わったか……」

ひと段落したらしい。ぼろっぼろの部屋の真ん中で肩を大きく揺らしているのはサカズキ大将で、向かいに立つ元帥は「ハァ~~」と肩を落としている。

 

フー……
フー……

フー……
フー……

 

いや、待って。これ本当に終わってるの? 暴力行為は収まっても大将の気は済んでいないのか、荒い呼吸と共に全身からゆらゆらと白い何かが……。

「じゃあ話そうか」
「っ、」

クザンさんに背中を押されるが行きたくない。「ん?」と足を止めつつも、にっこりといい笑顔になったクザンさんが容赦なく背中を押してくる。力押しじゃ勝てない……!

渋々歩き出した私は、狂気の目で見据えてくるサカズキ大将の目の前に放り出された。

「こいつが海兵に? なれるわけがない!」
「はぁー、そうは言っても。もう、そうする他はないんじゃ。お前も分かっとるじゃろう」

……ちっ――

うわぁ、とんだ暴れ馬じゃん……。このレベルの男で癇癪持ちとか、まじで勘弁して欲しいんだけど。むしろこの人こそなんで海軍大将やれているの……。

「おい、娘」
「…………ハイ」
「覚悟しとけよ」
「…………(なんで私がこんな目に)」

こんなの頷くしかないじゃないか……!

――が、しかし。そこは流石というべきか。散々暴れた後は何事もなかったように話が進んでいく。本当に嫌だったけど、上からの命令には従うスタイルらしい。……すごいな、縦社会。……私もこの世界に入るのか。大丈夫、かな。

「一兵卒にはしておけんぞ、こんな危険分子」
「だろうねぇ~」
「じゃが、下手に権力を与えても面倒であるからの」
「ううん~そうだよねぇ~」

いや、相槌適当か! クザンさんを睨みつけるが意に介さず。

「…………(はぁ)」

「少将くらいが妥当なんじゃない?」

「は……?」

「「「…………(じゃな)(だな)(だねぇ)」」」

 

――というわけで、私、なまえは今日から晴れて――お尋ね者の危険分子から海軍少将へと昇格致しました。

:
:

「必要なものはこちらで準備を進める。部屋は空いているところを探すから少し待っておれ。あとは……所属じゃの。誰か、面倒をみたいやつはおるか」
「はいはーい。俺、見るよ」
「クザン……お前は駄目だ」
「なんでよっ」

「少将になるんなら現場で動けんと話にならん。娘、戦闘経験はあると言ったが、どの程度じゃ?」
「あ……はい。レイ……ううん。覇気の訓練を受けました。武装色、見分色を使えます。筋力はありませんが、動ける方です。……あとは、まぁ。頂いた能力で援護する程度になるかと」
「…………ならば、実践で鍛えるべきじゃろう」

そう言ったが最後、全員が黙り込んでしまった。むむむ――唇を一文字にして、全員が眉間に皺を寄せている。誰に宛がうのか、彼らの頭の中では算段が立てられているのだろう。

「打ってつけのところはあるにはあるが……」

「………………?」

元帥が歯切れ悪く言う。

「大丈夫かの……」

え……? 何、また置いてきぼりにされてる?

「郷に入っては郷に従えって言葉もあるし。やってもらうしかないんじゃないの~?」

ボルサリーノ大将の間延びした声に他の三人が頷く。

「そうじゃの。駄目だったらそのときに考えるか」

そう言うと、元帥は卓上にある電伝虫に手をかける。犬の被り物を被った可愛らしい電伝虫の先にいる人は誰なのだろうか、と私は首を捻ることしかできなかった。

:
:

その後に合流した『ガープ中将』という方は大変豪快な方だったんだけど。

その場にいる元帥に並ぶ年長者で、残りの大将たちが素直に話を聞いていた。なんでも、教え子に当たる年代らしい。おぉ……見識のある方が、っていうかそれならそもそも元帥に駄々こねないで欲しい……。

面倒だから常に海楼石を身に付けさせろと言い放ったサカズキ大将に、じゃあお前はその状態で仕事が出来るんか、と正論を言い放つ姿はカッコよかった。

ガープ中将は、私のことを快く引き受けてくれた。その際、チカラについてどうするのか事細かく決めていく。

「制御用にわしが海楼石を携帯するようにする。他にも幾人か、携帯させよう」
「それがいいだろう」

手錠以外にも、指輪型、ネックレス型などを取り揃えることになる。ふと、「悪魔の実のチカラというなら、覇気で防ぐことはできんのか」と中将が言って、皆押し黙る。

「その件については追々考える」
「追々? センゴク、これこそ急ぐべきだろうが。何を言っておる」
「……はぁ。まだお前に話しておらんが、チカラの検証を行った結果、スモーカー中将が傀儡になっておる。その二の舞を作るわけにはいかん」
「じゃが、遅らせたところで変わらんぞ……?」
「むぅ……」

そこまで脅えられる程、酷いことをしたつもりはないんだけど……。スモーカー中将だったからこそ、衝撃がすさまじかったんだろうなァ……。ほんとごめんなさい、スモーカー中将。たぶんしばらくはその話で持ちきりになると思います……。

「下っ端としてわしのところの小童を使おう」
「コビーか? それとも、ヘルメッポか?」
「コビーじゃ」
「あいつはまだ覇気を覚えたばかりでしょ、ガープさん。それに若い。……すぐに呑まれますよ」
「……若いからこそ、吹っ切れることもある。それに覇気の度合いも知りたい。……そうじゃろ、センゴク」
「……まぁ、欲を言えばの」
「上層の人間については、中将連中から一人出せばいい……えぇっと、娘……なまえと言ったか」
「はい」
「同性には効くんか」
「いえ。まったく」
「そうか、じゃあ、そこまで最強というわけでもなさそうじゃ。センゴク、おつるさんに話しておいてくれ。わしの方でも何人かに会わせておく」
「おぉ、そうじゃの!」

ここまで会ってないから知らなかった。海軍には女性もいるのか!

:
:

話合いを終えて部屋を出た後――

「ガープじゃ。よろしくの、少将」
「はい。お世話になります」

颯爽と歩く背中についていく。……なんだろう。この人と話をしていたら、今まで漠然と感じていた不安が吹っ飛んだ。どことなくミホークさんに近い雰囲気を感じる。見た目は全然違うのに不思議だ。

そこから案内を受けて、ガープ中将の部下と顔合わせをしていく。愛弟子らしい、コビーという人とは握手を交わした。階級は大佐だそうだ。

「さっそく、明日から訓練に参加してもらう。わしらは女じゃからって手は抜かんからの。覚悟しておけよ」
「はいっ!」

去り際に、わしわしっと頭を撫でつけられた。振り返って去っていく背中を呆然と見つめる。――そうか……分かった。この人は私のことを少しも怖がったりしない。能力を聞いた時も、スモーカー中将の話を聞いた時も。私が男の天敵であると聞いても、彼の眼差しは何一つブレなかった。その姿勢がミホークさんに重なったのだ。……なんでかな。泣きたくなった。

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