「次来るときは先に連絡する」そう言って、電伝虫を指したスモーカー中将は、颯爽と去って行った。凍えるように寒い空気をほったらかして行ってしまわれた。…………最悪だ。「ちょっと待ってください」って言ったのに、無視して行きやがった、あの人。二人は一体何の話をしていたのか。こっちは話が見えないので、フォローのしようがなかった。
「あのう……」
沈黙したまま、固まっているモモンガ中将に声をかける。小声で会話をしていたとは言え、中将二人がいたのだ、注目の的にならない訳がない。これ以上晒し者になるのはごめんだ。
「良かったら、そこの休憩スペースで珈琲でも飲みますか?」
渾身の一言に首を振られた。うぅ……ダメージが結構デカい。
「では……あの、仕事に戻っても……?」
「あぁ……すまないな。邪魔をした」
「いえ、私は大丈夫ですが……」
こちらを向いたモモンガ中将の顔色が真っ青だ。
「大丈夫……ですか?」
一度頷いたモモンガ中将だったが、大丈夫そうには見えない。
「少し話したいことがある。昼休憩が終わった後、執務室に来れないか」
「昼休憩……。はい、大丈夫です」
「うむ、……では、また」
「はい、また」
去って行く後ろ姿を、本当に大丈夫なのだろうか――心配しながら見送った。
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「ねぇ、聞いた聞いた?」
「ん、何々?」
「スモーカー中将となまえ少尉、何やら仲良さげに抱き合っていたらしいよ?」
「え? そうなの……? でも、少尉は確かモモンガ中将と……」
「いやそれがね! その場にはモモンガ中将もいたのよ!」
「っ、何そのシチュエーション! 見たかった!」
「もうね、凄かったらしい!」
「もしや修羅場って奴……?」
「修羅場というより……あのスモーカー中将が少尉に対する態度がもうすっごくって!」
「え、つまり、少尉の相手はスモーカー中将ってこと?」
「ん~、たぶん? あんまり聞こえなかったらしいんだけど。そんな感じぽかったって」
廊下の曲がり角の手前、自分の名前が出てきたから足を止めた。本部にいる限り、噂話というのは出て回る。それには慣れていた。モモンガ中将の下にいたときは、私と中将が恋仲なのでは? なんて話が出ていたけれど、もちろん噂は噂。そんなものは放っておいた。……が、ここに来て、スモーカー中将との噂が出てしまった。それも、ついさっきの出来事で! なんったる早さ! 怖い、怖いよッ!!
「へぇ~じゃあ、モモンガ中将は取られちゃったんだァ~あんなに大事にしていたのにねぇ……」
「う~ん。大事にしていたっていうよりは、なんか……固執? していたって感じだったよね。アレじゃァ……捨てられても仕方ないと思うよ」
「お~、言うじゃん?」
「だって………………だからって、一方的に相手の行動を制限するのって、…………そんな相手嫌じゃない?」
「確かにぃ~! 私はそんな束縛男、願い下げだわ」
「でしょう!?」
うわ~、聞きたくなかったァ――噂話をしていた二人の気配が遠ざかって行くのを待ちながら、壁に寄り掛かって座り込む。今からモモンガ中将の部屋に行くのに、どんな顔しろっていうの。絶対に、中将の耳に入っているに決まってるじゃん……。うっわァ…………。懐にしまっている、スモーカー中将の電伝虫を取り出す。こんなことでお手を煩わせる訳にはいかない。……だから、ちょっとだけ、勇気を……ぎゅっと抱き締めて、どうにかこうにか気合いを入れた。

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