第14話:終焉が溶けていく

遠距離恋愛が難しいという話はよく聞く。だから、私たちもきっと長く続かないと思っていた。……けど、思いの外、私とスモーカーさんの相性は良かったらしい。

突然に机に置かれた紙袋。視線を上げた先には恋人が立っていた。

「スモーカー中将……?」

彼は見慣れないサングラスをしていた。

「っ、あはははっ! 何それ!」
「何、って。サングラスだよ、サングラス。似合ってんだろ?」
「いやいやいや。それはちょっと、ガラが悪過ぎて……」

「なまえさん!」
「たしぎちゃ~ん! 来てくれたのぅ?」
「はい。今回は遠征のついでに寄りましたので」
「たしぎちゃんは、このサングラスどう思う?」
「どうって……まぁ、人それぞれですし?」
「っ、ぷぷぷぷ! ほらね!」

「あ゛? 別にいいだろ。俺は目が弱ぇんだよ」
「え、そうなんですか?」

「スモーカーさんは、色素が薄いので、光に弱いらしいですよ?」
「へぇ、そうなんですね。じゃあ、今度もっといいサングラスをプレゼントしますよ」

「そりゃァいい。格好いいやつにしてくれ」
「了解です!」

ん――と突き出された紙袋はいつもの通り、私の好きなお菓子屋さんのものだ。

「いつもありがとうございます」
「お前が喜ぶからな」

フッと緩む口元。両目はサングラスのせいでよく見えなかったけれど、きっと柔らかく笑っていることだろう。スモーカーさんは、私のことをとても大切にしてくれていた。

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その日、ちょっとした飲み会があったなまえは断り切れずに参加していた。「俺がいるとき以外、酒は飲むな」と言っていたスモーカーさんが、今日は本部にいる。……ということは、別に飲んでいいってことですよね! 自分の良いように解釈した彼女は颯爽と夜の街に消えていった。

 

「う……うぅ……」

酒は飲まないと弱くなる、誰かがそんなことを言っていた。なまえはぼんやりする思考を放棄しないように一生懸命に両目を見開いていた。「あ~なまえ少尉の目が据わってる……これはやばい」彼女の酒癖を知っていたかつての同僚が、応急処置として、ある人を呼んだ。その人は今の彼の上司だった。

「なまえ少尉が飲んだくれていまして……」

近くで飲んでいたモモンガが呼び出しに応えて出向く。二人掛けの椅子に横になって気持ちよさそうに寝息を立てているなまえはどう見たって飲み過ぎだ。

「ハァ……酒癖の悪さは健在だな」
「すみません、中将」
「いや、いい。私の方で運んでおく。あぁ……そうだ、スモーカー中将に連絡を入れてくれないか」
「分かりました」

罰の悪そうな部下に頼んだ後、彼女の体を抱え上げる。胸の中に、小さく丸まるように納まったなまえは甘えるようにすり寄ってきた。

……これはまずい。人目がある前でこの体勢を続けるのは良くない。そう思って、彼は移動することに決めた。水の入ったボトルを手に持って、店の裏手に向かう。

酔っ払いに向けてだろうか、そこにもいくつかのベンチが用意されていた。不安定ながらもなまえを座らせてほっとする。……あとは、スモーカーを待つだけ……ん?

「……モモンガ、ちゅーじょー?」

不意に顔を上げたなまえが、下から仰ぎ見てくる。どうやら少し酔いが覚めたらしい。

「目が覚めたか。少し水を……「どうして見放したのですか」――っ、」

モモンガの胸板をなまえの拳がポカポカ叩く。全く力が入っていない拳なのに、それは彼のことを強く打った。

「好きな人に置いて行かれる気持ちが分かりますか」
「私がどんなに……あのときの私は……」

一歩間違えば、欄干の下に落ちていたかもしれない。あの場に、スモーカーさんがいなければ、私はここにいなかったかもしれないんですよ――

「すきだったのに。ずっと傍にいたかったのに、なのに、ばかばかばか!」
「すまない。すまなかった、……なまえ」

なまえの怒りは相当で、彼女は身を乗り出して、モモンガの上に跨がり、なおも拳で彼の腹を打ち続けた。どうやったら、なまえの気がおさまるのか、見当も付かないモモンガは、されるがまま、眉を落として謝り続けるしかなかった。

そんなとき、声がする。

「人の女に手を出すとは良い度胸だな」

スモーカーがなまえを迎えに来たのだ。

 

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― スモーカー視点 ―

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いや、待て。馬乗りになっているのはなまえの方で、これじゃ逆になるのか? まぁ……どっちでもいいか。

「世話をかけた」

モモンガの上に乗っかるなまえを抱え上げて連れて行く。野郎がどうなったかなんて興味はない。……さて、なまえをどうする、か。この状態で寮に入るのには、人目があり過ぎる。なまえも嫌がるだろう。噂の的になること間違いなしだからな。

……それなら。本部にある、G5の部屋に向かう、か。最近使っていないが……、部屋の中は以前に来たときのまま。掃除はされているようだった。念のため……と鍵を閉めて、なまえをソファに置くと、薄ら彼女の目が開いた。

「だから飲むなっつっただろう……」

ぼんやりとした顔のなまえが「ごめんなさい」と言う。親指の腹で唇に触れて、そっと下唇をなぞった。熱いのだろう。唇が真っ赤になっている。――と、なまえが急に動き出した。首の後ろに腕が回って来て、ぐっと引き寄せられる。当然ながら、顔が寄って、互いの唇が重なった。なまえの吐息が、俺を誘う。

「っ、ふ……」

腰に手を伸ばして、なまえを抱える。自分もソファに座り、起こした彼女の体を膝に乗せた。そのまま、流れるように深い口付けを交わした。

「んんっ、きもち……い」
「そうか……」
「ん、…………」

とろんと蕩けた瞳は俺を見ていない。ここじゃないどこか、……誰かを見ているように感じて、サッと目が覚めた。危ねぇ……危うく流されるところだった。……キツく両目を閉じる。なんとか口付けを止めて、顔を逸らした。

「…………?」
「酔い潰れた奴を襲うほど、俺は落ちぶれちゃいねぇからな」

「もう、寝ろ……」なまえを抱き締めてやる。そのまま背中をとんとんとん――それだけで、なまえは眠りについた。

 

すきだったのに。ずっと傍にいたかったのに、なのに、ばかばかばか!――聞きたくなかった。なまえの本心を聞いてしまった。なまえがモモンガに好意を持っていたことは知っていた。……が、本人の口から、あのように聞かされるとは…………。ハァ――思ったよりも、ダメージがデカい。

小窓を開けて瓶ビールを呷る。膝の上に乗せたなまえのスー、スー、という寝息を聞きながら、この先をどうするべきか、回らない頭で一晩考えた。

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