それからどんどん家族が増えていった。私の体は完全に回復し、度々戦場へと出るようにもなっていた。私の回復能力はマルコほどではないにしろ、秀でていたのだ。少々の傷は屁でもなかった。けれど、船に戻る度、回復しきった肌の上にある赤いシミをみた親父は眉を寄せる。
「どうしたの、親父?」
「別にお前は戦わなくてもいいんだぞ」
「……いやよ、だって。私たち、家族でしょ?」
そう笑えば、いつも決まって笑いながら抱きしめてくれる。
「ちょ、親父!」
「……なんだ?」
「ちょっとは手加減してよ!」
親父はでかいんだから! そう言うと、親父の抱きしめる手が止まった。あれ?ゆっくりと顔をのぞき込めば、……あれ? もしかして、傷ついてる? 首を傾げて、親父? と言えば、視線がこちらへ向く。
「おらァ、好きでこんな体になっているわけじゃない」
あら、珍しい。親父の泣き言を聞く機会が来るなんて。今日は雨かな? と思う。クスクスと笑うと、なんで笑う? と睨まれた。
「だって、親父でも可愛いところがあるんだなって思って」
そう言って、自分から親父の体に飛びつけばぎゅっと抱きしめてくれた。
「……お前の前限定だ」
え?
顔を上げれば、ソッと大きな手で頭を覆われる。そのせいで親父の顔は見れなかった。むぅっと頬を膨らましつつ、その言葉の真意を確かめようとする。
「ねぇ、親父ぃ~~」
「なんだ」
「家族は恋人にはなれないの?」
「っは!?」
前々から少し思ってはいた。親父と言われるにはまだ少し経験が足りないんじゃないだろうか、この人は、と。まぁ私からしてみれば、かなり年下だからそう思ってしまうのも仕方がないんだろうけど。
「私、親父と結婚した~い」
「……それは嬉しい話だなぁおい」
と、テーブルにある酒瓶に手を伸ばす様子に、もしかして気を紛らわそうとしている? と疑いの目を向ける。
「……エドワード」
「――ブッ!!」
「ちょっと、汚いんですけど……」
むくれつつそう言うと、あぁ、悪かったと飛び散った酒を拭いてくれる。あきらかに動揺しているじゃない、親父。クスクスと笑う。
「…………」
気まずそうな親父は私を自分の体から離そうとする。
「えーなんでー?」
「いいから、もうあっちいってろ」
「……ふぁーい」
いいもん、マルコに続きしてもらうもんそう言って歩き出せば、案の定、焦った親父が手を伸ばしてくる。
「ちょっと、なに?」
「待て」
「あっちいけと言ったり、待てといったり、なんなのさ!」
いい加減、素直になってよとそこまでは言えなかったけど、そう思いながらギロリと目を見れば、あぁとため息が親父から漏れた。親父は気づいていない。私は続きをしてもらうと言ったまで。別にそういう、男と女がやるようなことをイメージして言ったんじゃない。ただ、話し相手になってもらうというだけだったのに、何をそんなに焦っているの? もう、その行動から、あなたがさっき何を考えていたなんてすぐに分かってしまうんだから。
「エドワード!」
「その名で呼ぶな」
「ふふふ、なんで?」
「戻れなくなるだろうが……」
珍しく弱々しい彼の声が愛おしい。
「いいじゃない、戻れなくても」
「……お前はいいのか、それで?」
「うん! 私、エドと本当の家族になりたいの!」
そう言って笑って見せれば、あのいつも平静なエドが泣きそうな顔であぁと頷いてくれた。
「エド、私……あなたのことが大好き。愛しているわ」
「……あぁ、俺もだ」
マルコから奇妙な女がいるという報告を受けたあの日。木の上で横たわっていたお前を俺のものにしたいと思った。けれど、そう思えば思うほど、お前を傷つけてしまう、そんな気がして、怖かった。
「エド、男ってほんとバカだよね」
「グラララララッ!! そうかもしれねぇな!」
豪快に笑い声を上げるエドにすり寄ってその夜は一緒に過ごした。
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時は流れた。白ひげに女ができたという噂が流れたのはもう何年も昔の話。今は当たり前のように私はエドの隣に立っていた。
「親父、エースが捕まった」
「……そうか」
きっとエドは……その日から決めていたんだと思う。
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「いや! いやだ! 私もあなたと一緒に、一緒に行く!!」
「なまえ、悪いがお前はもう連れていけねぇ」
そう言って、ベッドの上でエドは私を抱きしめてくれた。エドは年を取った。けれど、私の姿は気持ち悪いぐらいにあの日のままで。
「お前には別の人生を生きて欲しい」
何度も首を横に振った。
「私は、あなたとの人生だけでいい。それだけで十分なの! だから、私も連れていって!」
「なまえ、そう声を上げるな。みんなが起きてしまう」
何言ってるの。エドも、もう気づいているでしょ。今、私たち2人の会話を息を呑んで見守ってくれているみんなの気配を。みんな、みんな私たちのことを心配してくれている。そして、私は……あなたが……。
「イヤだ。イヤだ。だって、あなたこのままじゃきっと……」
「いいか、なまえ聞け。いつの時代も新しい時代が来るときは何か大きなことが起こるんだ。それに犠牲は必要なんだ、分かるな?」
「だからって……なんで、その犠牲が……」
あなたなのよ……掠れた声でエドの服をぎゅっと握りしめる。分かってくれ、お前は俺の、白ひげの妻だろう? 最後ぐらい夫の言うことを聞いてくれ。ポロリ、ポロリ。落ちていく涙。そんな……こんなことになるんだったら、頼みなんていくらでも聞いてあげていたらよかった。そうしたら、あなたのわがままなんてもう聞かない! って言ってやったのに。なんで、今そんなことを言うのよ!
あぁ、きっと、何を言ってもこの人の気持ちは動かない。この人は決めたのだ。そして、静かに笑っていた。
「なまえ、明日この船から降りろ」
「……うん」
「俺の知り合いがいる船がある。そこで好きなように暮らすといい」
「……うん」
「新しい人生を生きろ」
いいな? そう目を細める彼の目尻には嘗てはなかった皺がある。口元の皺もずいぶん増えた。あなたはいつの間にか、もうこんなに年を取っていたのね。
「……うん」
でも、グシャグシャと頭をなでてくれるその手は昔と変わっていない。ぎゅっと抱きつくと、今日は一緒に寝てもいい? そう、すり寄れば、俺は病人だぞと笑われた。
「エド、愛してた」
「俺は最後までお前を愛してるさ」
「……うん」
ありがと、目を閉じれば明日が来てしまう。明日なんてきて欲しくない。けれど、卑怯なぐらい暖かなこの場所はすぐに私の意識を微睡ませた。昔は一日が早く過ぎていった。けれど、あなたと出会うようになって、私は変わったの。一日が楽しくて、長くて、幸せで。あなたに出会えて、本当に良かった。

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